位置情報に基づく修学旅行生の情報支援システムの産学連携による開発

位置情報に基づく修学旅行生の情報支援システムの産学連携による開発

2013年12月5日


左から森助教、笠原大学院生、石川陽 RAiSE代表理事

 美濃導彦 学術情報メディアセンター教授、椋木雅之 同准教授、森幹彦 同助教、笠原秀一 情報学研究科大学院生らの研究グループは、近畿日本ツーリスト株式会社(以下、近畿日本ツーリスト)、一般社団法人復興教育支援ネットワーク(以下、RAiSE)、ジェイエムテクノロジー株式会社と連携して修学旅行生向けの情報支援サービス「Ccry(ククリ)」を開発しました。「Ccry(ククリ)」は修学旅行生のGPS位置情報を用いて、平時および災害時ともに旅行中の生徒の安全を確保するためにデザインされた情報システムです。「Ccry(ククリ)」は12月5日より近畿日本ツーリストおよび復興教育支援ネットワークが一般向けの試験サービス提供を開始する予定です。

 美濃教授らの研究グループは、京都市、京都高度技術研究所、ITコンソーシアム京都等と連携して位置情報を分析することで、今後、修学旅行生を含めた旅行者の観光行動モデルの構築を進める予定です。修学旅行生の位置情報データは、匿名化して研究目的で利用する事を事前に学校側から承諾を得ています。また、国内外の他の研究機関や企業にも呼びかけ、GPS位置情報データの共有やプライバシー、データのオープン化に関するルール作り等を行う「地域観光情報研究機構」を今後設立します。

 本研究成果の一部は、サービス学会の国際会議「ICServ2013」にて発表されました。

要旨

 「Ccry(ククリ)」は、GPS搭載スマートフォンおよびタブレット向けのアプリケーションとして実装されています。平時には自主研修中の生徒の位置を常に教員が把握することで生徒の安全を確保し、災害時には生徒に避難所情報を配信して避難させるとともに、教員による安否確認を行うことを目的とします。具体的には、生徒のリアルタイムの位置情報を収集し、スマートフォンおよびタブレット端末で教員と生徒に提供します。この情報を利用することで、引率の教員は生徒の現在位置を常に確認することができます。災害時には、教員と生徒で直接無線通信が利用できなくなっても、位置情報は通信がつながる限り30秒ごとにサーバに送信され、旅行期間中蓄積されるので、サーバへの通信が確保できていれば、留守本部で最新の生徒の位置を問い合わせることができます。また、引率教員が生徒の安否を確認できるよう、同報メールとIP電話機能も搭載しています。


図1:教員は、生徒グループの現在位置、移動履歴をタブレットやPCで確認できます


図2:災害時に備え、位置情報は遠隔地に配置されたリモートサーバに蓄積されます

背景

 中学校、高等学校の修学旅行は全国で毎年約300万人が参加しており、団体旅行としては国内最大規模です。修学旅行では指導にあたる教員が生徒の安全確保に責任を負っていますが、一方で自分達だけで班別の自主研修を行って自主性を発揮することも求められています。安全を確保しつつ、初めての街で生徒を行動させるという、相反する目的を同時に達成するため、多くの学校関係者は情報通信技術を活用して生徒の位置を把握したいと考えています。生徒が班別に行動する自主研修時は教員の目が届きませんが、生徒の位置が常時把握できれば、事故や災害が発生した時に、位置情報を元に現地に移動し、対処できるからです。

 これまでの安全確保対策は、平時を前提に、事故や事件、あるいは迷子等を対象としており、大規模な災害の発生は想定されていませんでした。しかし、2011年の東日本大震災における生徒の被災等を契機に、災害時における生徒の安全確保が求められるようになっています。特に、修学旅行に関わる教員や旅行代理店にとって、普段の生活圏から離れて土地勘のない修学旅行先での安全確保が大きな課題として浮上しています。また、大規模災害時には、生徒の現在位置情報を必要とするステークホルダーも増加します。現地で生徒を引率する教員だけではなく、学校に残っている教頭や保護者にも、生徒の情報を提供しなければならないからです。

研究方法

 修学旅行はさまざまな目的を持つ複合的な行事であり、位置情報を用いた情報支援という切り口で俯瞰してみても、(1)安全確保・安否確認、(2)見学行動の支援、(3)学習効果向上という三つの目的が大きく存在しています。情報支援を行う上では、その優先順位を明らかにする必要があります。修学旅行には、学校をはじめ、多様なステークホルダーが存在してコミュニティを形成しています(以下、修学旅行コミュニティと呼びます)。こうした修学旅行コミュニティは、学校、生徒、旅行代理店、旅館、その他観光業者等で構成されており、本研究ではコミュニティのメンバーと産学連携の研究体制を構築して、修学旅行における優先順位を明らかにし、実際に修学旅行で利用されるサービスの開発を目指しました。

 研究においては、のべ12校200グループ以上の学校および修学旅行生の協力を得て、17ヶ月間で6回の実証実験を通して、サービスのデザイン・実装と評価試験を行いました。

今後の予定

 修学旅行生の位置情報データは、匿名化して研究目的のために利用することを事前に学校側から承諾を得ています。今後、京都市、京都高度技術研究所、ITコンソーシアム京都等の行政機関および国内外の他の研究機関や企業に呼びかけて「地域観光情報共同研究機構」を設立し、GPS位置情報データの共有やプライバシー、データのオープン化に関するルール作り等を行う予定です。

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金24650055より資金的支援を受けて実施されました。

 

  • 朝日新聞(12月6日 37面)、京都新聞(12月6日 31面)、産経新聞(12月6日夕刊 8面)、日刊工業新聞(12月10日 19面)、日本経済新聞(12月6日夕刊 15面)、毎日新聞(12月6日 10面)および読売新聞(12月6日 36面)に掲載されました。