2次元空間に「最も重い電子」を実現

2次元空間に「最も重い電子」を実現

2010年2月19日


左から松田教授、芝内准教授、寺嶋教授

 松田祐司 理学研究科教授(物理学・宇宙物理学専攻)、芝内孝禎 同准教授、寺嶋孝仁 低温物質科学研究センター教授の研究グループは、真空中の電子の1000倍にも達する大きな見かけ上の質量を持つ「重い電子」の金属状態を、人工的に2次元空間につくり出すことに世界で初めて成功しました。本研究成果は、米国科学雑誌「Science」誌に2010年2月19日に掲載されました。

 本研究成果は独自の技術を用いて希土類元素の化合物を交互に積み重ねた「人工超格子」を作製することにより、電子を狭い空間に閉じこめ、自然界には存在しない電子状態を実現することにより得られたものです(図参照)。この研究によって、重い電子状態を人工的に制御することが可能になり、新しいタイプの超伝導体や磁石をつくりだすことができるようになると考えられます。

    

  1. 図:本研究で作製したCeIn3/LaIn3超格子:(左)概念図、(右)透過型電子顕微鏡による断面写真。白いスポットがセリウム(Ce)原子を示す。重い電子はCeを含む2次元平面に閉じこめられている。

 本研究は、文部科学省科学研究費基盤研究、新学術領域研究「重い電子系の形成と秩序化」、およびグローバルCOEプログラム「普遍性と創発性から紡ぐ次世代物理学」のサポートをうけ、宍戸寛明 低温物質科学センター特任助教、紺谷浩 名古屋大学大学院理学研究科准教授らとの共同研究によるものです。

  • 論文名:
    "Tuning the dimensionality of the heavy fermion compound CeIn3" (重い電子化合物CeIn3の次元制御)
    H. Shishido, T. Shibauchi, K. Yasu, T. Kato, H. Kontani, T. Terashima, Y. Matsuda

研究の背景と本研究の意義

 物質を構成する電子の間にはクーロンの力がはたらきます。互いに接近しすぎると反発力が働き電子は動きづらくなり、ふつうの真空中の電子よりも重い質量を持った電子のように振る舞います。さらにある種の希土類化合物では、動き回って電気伝導を担う「伝導電子」と、動き回らずに磁性を担う「局在電子」に分けられ、この2種類の電子の間に強い相互作用が働いて混じり合う効果(近藤効果)により、見かけ上通常の電子の数十~1000倍にも重くなった有効質量を持つ「重い電子」が現れます。重い電子はしばしば超伝導を示し、その超伝導発現機構は従来の超伝導体とは大きく異なることがわかっています。また様々な面白い磁気状態を持つため、重い電子状態はこれまで盛んに研究がされてきました。これまで「重い電子」状態を持つ化合物はいくつか発見されていましたが、半導体のように人工的に電子状態を制御する試みはこれまで前例がありませんでした。

 今回当研究グループは、分子線エピタキシーという技術を用いて希土類元素の一つであるセリウム(Ce)を含む重い電子系化合物の人工超格子を作製することに、世界で初めて成功しました。特に重い電子を空間的に2次元に閉じこめることにより、これまでで「最も重い電子」をもつ金属状態を人工的に実現しました。我々の実現した系では、有効質量が真空中の電子の1000倍近い(水素原子の原子核(陽子)に匹敵する重さ)電子が2次元空間を動き回り電気を流します。今後、この方法を用いて新しいタイプの超伝導体や磁性体を人工的につくり出すことが可能になり、新しい発現機能を持つ超伝導や磁性の研究への発展が期待されます。また希土類化合物の人工超格子は、スピンを用いた新しいエレクトロニクスのデバイスにも役立つことが期待できます。

 

  • 京都新聞(2月19日 3面)、産経新聞(2月19日 28面)、中日新聞(2月19日 3面)、日刊工業新聞(2月19日 20面)および毎日新聞(2月19日 3面)に掲載されました。