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ゲノムに抗体の記憶を刻むAID蛋白質遺伝子(Aicda)の発現制御機構-何故非Bリンパ球にAIDが発現し、癌化が起こり得るのか-を解明しました。

2009年12月7日

 このたび、本庶佑 医学研究科客員教授らの研究グループの研究成果が「Nature Immunology」誌に掲載されました。

 写真は長岡仁 医学研究科准教授

研究成果の概要

 Bリンパ球は、ワクチンをはじめとする多様な外来抗原に対応するため抗体を産生する。 抗原に反応し活性化したBリンパ球はヘルパーTリンパ球等からの刺激を受け自らの抗体遺伝子を改変する。これにより、親和性がより高く且つ様々な機能を担う種々のアイソタイプの抗体分子をコードする遺伝子が作られ、それは免疫記憶として保存される。Activation-induced cytidine deaminase(AID)はこの時に遺伝子改変を引き起こすDNA鎖切断を誘導する蛋白であり、またその変異原性は抗体遺伝子に留まらずc-myc等の癌原遺伝子に対しても認められ、発がんへの関与も示唆されている。

 AIDの遺伝子(Aicda)の発現は活性化Bリンパ球に特異的だが、近年細菌やウィルスの感染等で非Bリンパ球系細胞にも発現してしまう例が示された。何故AIDが、活性化Bリンパ球に特異的に強く発現され、その他の組織では殆ど発現しないのか、また、その反面感染等条件が揃えば非Bリンパ球系細胞にまで発現してしまうのか、その制御メカニズムはわかっていない。

 今回の研究で私たちは、Aicda遺伝子は外部刺激に応答するエンハンサー、Bリンパ球特異的に働くエンハンサー、および幅広い細胞で働くサイレンサーのバランスで制御されている事を明らかにした。外部刺激に応答するエンハンサーは、Aicdaの上流領域にあり異種間で良く保存された領域で、サイトカインやヘルパーTリンパ球からの刺激(CD40リガンド)等で活性化する転写因子(STAT6やNF-κB)が結合して転写を強力に誘導した。また、Bリンパ球特異的に働くエンハンサーは第一イントロンに存在し、Bリンパ球で働く転写因子が結合し遺伝子の発現を誘導した。加えて第一イントロンにはサイレンサーが有り、上記の2つのエンハンサーに拮抗する働きを持っていた。

 この結果から、AIDの発現を以下の様に説明しうる。刺激を受けて活性化されているBリンパ球では、両方のエンハンサーが働きその為サイレンサー活性を凌駕し強力なAID発現が起こる。また異なる細胞系であっても感染等が生じ、強力にNF-κBが活性化された様な場合にはBリンパ球特異的なエンハンスは起こらなくとも片方の効果で或る程度の発現が起こりうる。しかし未刺激のBリンパ球や、通常のレベルでの外部刺激を受けた程度の細胞ではサイレンサーの抑制効果でAID発現は見られない。

 AIDの役割は2面的と考えられ、免疫における正の役割に加えて、負の作用であるゲノム不安定化と発がんへ関与を包含している事が示唆されている。AIDの”役割外”の場での発現では、内因性変異原としての作用が問題となる可能性がある。今回の成果は、今後種々の状況下でのAIDの発現メカニズムをより深く知る事や、また、その情報に基づいて免疫系での働きを残しつつその”暴発”を防ぐといった将来の応用の可能性を提示すると考えられる。


外部刺激に応答するエンハンサー

 

  • 朝日新聞(3月2日 27面)、京都新聞(12月7日 30面)、産経新聞(12月7日 2面)、日刊工業新聞(12月7日 18面)および読売新聞(12月7日 2面)に掲載されました。