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京大の「実は!」Vol.15 「京大の、おもしろ研究者の実は! -FILE.2 川本竜彦 理学研究科附属地球熱学研究施設助教-」

 京大の「実は!」な宝物は山ほどありますが、なんといっても忘れてはならないのが、世界に誇るすばらしい研究者たち。

 あらゆる研究において、その分野に人生をかけて挑み、大きな成果を世界に発信する研究者たちが、京大にはたくさんいます。

 そんな研究者たちは、独自のアイデアで様々な取り組みを行い、研究の素晴らしさや価値を広く発信しています。

 シリーズ「京大の、おもしろ研究者の実は!」では、京大ならではのユニークで斬新な取り組みをしている、でも実は世界的にスゴイ研究者をご紹介していきます!

火山の下では、一体何が起こっているのか!? 地球内部の「水」の謎に挑む!
FILE.2 川本竜彦 理学研究科附属地球熱学研究施設助教

「おもしろいでしょう」が口癖の川本助教。岩石を眺める顔が嬉しそう。

 巨大地震や、火山の噴火(マグマの発生)など、大規模自然災害の発生には、地球内部の「水」が大きく影響していることをご存知ですか?

 「火山の下で、何が、どのように起こっているかを知ることは、我々の最大の関心事のひとつです」

 それを研究のモットーに、「地球内部の水」というスケールの大きな謎の解明に挑み続けているのが、川本竜彦 理学研究科附属地球熱学研究施設助教です。

 少しイメージし難い学問領域ですが、「有馬温泉の謎の解明」や、「あたたかい氷をつくる!」などなど、そこには地球科学の意外なおもしろさが隠れていました。

 ちなみに、タイトル横のイラストは「ダイアモンドアンビル装置」という、高圧実験用装置をイメージして作った先生オリジナル。

 今回は、マグマ博士こと、川本助教の「実は!」な魅力に迫ります!

 「地球内部の水」の研究、と聞いてもスケールが大きすぎてなかなか難しそう・・・。

 一抹の不安を抱きつつ、川本先生の研究室を訪問。

 「まずはこれをお見せしましょう」。そう言って川本先生が手にしたのは、何の変哲も無い一つの薄い板のようなもの。岩石を0.1mmの薄さにスライスしたというその石の薄片を、まずは光にかざしてみます。ただ石を通してかすかな光が見えるだけ・・・。

 次にその薄片を「偏光板」で挟み、同じく光にかざして見てみます。すると・・・、まるでステンドグラスのような、何色もの色を帯びた薄片が浮かび上がります。


(左)薄片をただかざしてみても特に変化はなし。 (中央)同じ薄片を偏光板で挟んでかざしてみると、鮮やかな色が現れました! (右)さまざまな薄片の標本

 「おもしろいでしょう!」

 そう言ってニヤリとした川本先生も、もともとは地球科学とは全く無縁の学生時代を過ごしたそうです。それが、友人の誘いで地球科学を専攻することになったのを機に、「マグマを作るには水が必要」という話のおもしろさに惹かれ、この世界へ飛び込むことに。その後、伊豆大島の大噴火を目にしたことや、さまざまな人との出会いなどをとおして、どんどんこの道に没頭するようになりました。

実はスゴイ!「地球内部の水」の研究。そのおもな研究の手法とは・・・?

 川本先生の研究手法は、おもに以下の二つです。

  1. 地球内部の水やマグマがどのように振る舞うかを目で見るための高温・高圧実験を行う。
  2. 天然の石の中から流体の水を探し、その中に塩分が含まれているかなどを調べる。

(1)高温・高圧実験で、「火山の下で、何が、どのように起こっているかを知る」を再現

 地球の中の水やマグマがどのように振る舞うかを目で見るための、高温・高圧実験を行います。おもに高圧発生装置(ダイアモンドアンビルセルやマルチアンビル型装置)を用いて、大学の実験室やスプリング8などの放射光実験施設で行い、「マグマと水の関係」「結晶の溶け方」を調べます。

(2)石の中に含まれる塩水が、謎を解明する鍵のひとつ

 岩石の中に含まれる水の詰まったカプセル(流体包有物)を観察します。具体的には、岩石を0.1mmの厚さに削って、温度を下げたり上げたりする装置を用いて岩石の中の水カプセルが凍る温度を測定し、塩濃度を推定します。


(左)薄片を、偏光顕微鏡で見てみます。 (中央)40倍のレンズを使って拡大すると、水の粒が確認できました!  (右)1986年の伊豆大島の噴火映像。この噴火にも、水が大きく影響しています。

― 有馬温泉の謎も、マントルの塩水が影響していた!?

 最近の川本先生らによるチームの研究で、海洋プレート(海底をつくる岩板)が、地殻の下にあるマントル層に沈み込むときに海水を運び、この海水が有馬温泉(兵庫県)などの塩分や炭酸成分に富む温泉や、火山をつくったとする新しい仮説が発表されました。

 先生らの研究チームが1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火で出たマントルの岩石を観察したところ、0.03mm大の粒が多く含まれることを発見。この粒の中に、海水より少し濃い約5%の塩分や炭酸成分を含む液体があり、それが有馬温泉などに代表される温泉水の特徴と一致したことを突き止めました。

 有馬温泉といえば、近くに火山がないのに地中深いところから沸き上がり、しかも塩分濃度が高く、100度近い高温のお湯をとうとうとたたえる「謎多き名湯」とも言われていました。その謎の一端を解明する大きな発見とも言えるのです! これまで、プレートは「水」を運ぶと考えられていましたが、「海水に似た塩水」と考えると、新しい発展があるかもしれません。

川本先生の、実は!ここがおもしろい!

 川本先生は、科学の楽しさを子どもたちに広めたい! と、中学校・高校への出前授業なども行っています。

 その出前授業で必ず披露するのが、水に1万気圧という高い圧力をかけて「あたたかい氷を作る!」という不思議な実験。研究手法の一つ、「地球の中の水やマグマがどのように振る舞うかを目で見る」ことを身近に体感することが出来る実験です。

「あたたかい氷」を作るって・・・!?

 氷は、H2O分子が規則正しく並んだ結晶構造を持ちますが、これまで発見されている秩序配列は14個あります。したがって、氷は実は14種類もあるのです。地球内部や木星の衛星(ガニメデなど)の中では、あたたかい氷ができています。

 冷凍庫で作る私たちのよく知っている氷は、氷Ih(イチ エイチ)と呼ばれており、水に浮きます。一方、室温で水に圧力をかけても氷になります。その氷は、分子の配列も通常私たちが知っている氷と異なります。室温高圧(1万気圧)でできる氷は「氷VI(ロク)」と呼ばれ、水よりも重いもの。高い圧力では、氷はどんどん形を変えます。6万気圧では、300度を超えた氷をつくることができるそうです。このような地球の中の世界を研究するためには、高圧装置が活躍します。


(左)高圧装置(サファイアアンビルセル) (中央)黄色い板(写真左の銅合金)に0.5mmの穴を開けて水を入れ、上下をサファイア(写真の1円玉の手前)で挟み、押すことで、水に圧力をかけます。すると、氷VIが成長します(下図1)。(右)あたたかい氷が移動する様子を画面で見ながら(下図2)、実際に装置を動かしてみました!


図1:あたたかい氷(氷Ⅵ)のできるまで

(1)水に圧力をかける→(2)1万気圧でたくさん氷を作る→(3)そっと圧力をぬいて溶かし→(4)1個だけ成長させる


図2:氷Ⅵが水の中を落ちて行く様子

 氷は冷たくて、水に浮くもの。そんな固定概念を覆す、川本先生の実験に目からうろこでした。

 「僕の研究は、すぐに役立つものとは言えません。でも、「わからなかったことがわかることに大きな意義がある」と考えています。そうした自由な研究ができるのが京大のすばらしいところ。」そう語る川本先生。

 地球規模の壮大な研究が、有馬温泉の発見のように意外なところで繋がっていたとは・・・。研究し、解明することが、世の中の謎の真相解明へと繋がるおもしろさを教えていただきました。

 そんな、知を広げる新たな研究の数々、それに挑む研究者たちも、京大の大きな宝物なのです。

研究者に質問!コーナー

Q: 研究マストアイテムは?

― 28年間ずっとつけている、研究ノートです。なんでも記憶する代わりに、できるだけノートに記憶してもらっています。


初代のノートは廃版になったため、1998年からはこのクロッキーノートを愛用

Q: 研究に対するこだわりをおしえてください!

― 守備範囲は広く、攻撃範囲は狭く。必要な勉強はできるだけ広くしますが、研究対象は絞り込みます。単におもしろいからという理由で研究はしないように心がけています。常に科学の中でのその研究の意義を考えているつもりです。ただし、おっちょこちょいなので、思い立ったことは、すぐにしようとします。実験のほとんどは失敗ですが・・・、でも失敗はすぐ忘れます(笑)。

Q: 研究者の夢

― 木星の衛星にも塩水があると言われています。その塩濃度を測ってみたいです。老後は宝塚大劇場の近くに住みたいです(宝塚ファンなので・・・)。

研究の今後の展望

 多くの研究仲間と、世界中のマントルの水の塩濃度を測ろうとしています。海水が循環すると考えるのは楽しいですが、今後は、水じゃなくて「塩水」であることの、地震やマグマの発生に持つ意味を明確にしたいです。

研究者プロフィール

略歴

1988年 京都大学大学院理学研究科修士課程修了
1992年 博士課程修了、京都大学博士(理学)
1992~4年 東京大学理学部地質教室 JSPS研究員
1994~7年 アリゾナ州立大学地質化学教室 JSPS、NSF研究員
1997年 バイエルン地球研究所客員研究員
1997~8年 京都大学理学部研究機関研究員
1998年 京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設助手
2007年 同助教に呼称変更、現在に至る。この間、下記を兼務
2003~4年 パリ第6第7大学地球物理学研究所客員研究員
2004年 パリ第7大学地球物理学研究所客員教授
2005年 ブレーズパスカル大学マグマと火山の研究所客員教授 
現在に至る

論文、講演、著書情報

http://wwww.vgs.kyoto-u.ac.jp/InetHome/kawamoto/

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