研究者情報
研究者名
簗取 いずみ
研究者名
岩井 一宏
概要
細胞老化は、加齢やさまざまな病気に関与する重要な細胞状態です。加齢に伴い細胞内に顕著な鉄蓄積を呈しますが、鉄が細胞老化にどのように関与するのか、また、鉄が蓄積しているにもかかわらず、なぜ鉄依存性細胞死「フェロトーシス」を回避できるのかは未解明でした。京都大学大学院医学研究科の簗取いずみ講師、大学院教育支援機構の岩井一宏特定教授らの研究グループは、老化細胞は反応性の高い二価鉄(Fe2+)をリソソームに蓄積させることで、炎症性因子の産生などの老化細胞形質を促進することを明らかにしました。さらに、リソソームへのコレステロール蓄積が膜を鉄による損傷から保護するとともに、鉄によって攻撃される多価不飽和脂肪酸を脂肪滴に隔離することでフェロトーシス耐性を獲得することを見出しました。また、リソソームへのFe2+蓄積の抑制で老化細胞形質がほぼ消失することも見出しています。本研究は、老化細胞のユニークな特徴である鉄のリソソームへの安全な隔離が、老化細胞形質の発現に寄与することに加え、細胞内の鉄の局在と動態が細胞の運命を左右する仕組みを示すなど、鉄蓄積が老化に果たす役割を明確にした画期的な成果です。本研究成果は、2026年11月2日にThe EMBO Journalにオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「老化細胞に鉄が蓄積することは以前から知られていました。しかしながら、老化細胞は鉄依存的な細胞死である、フェロトーシスに耐性です。『なぜ老化細胞は顕著な鉄蓄積にもかかわらず死なずに生き残れるのか』という素朴かつ根本的な疑問が、本研究の出発点でした。
今回、老化細胞のフェロトーシス耐性のメカニズムを解明する過程で、リソソームへのFe2+蓄積が安全な鉄の格納方法であること、そのFe2+蓄積が老化細胞を老化細胞たらしめることを発見しました。鉄は、不可欠な栄養素で、成長期には鉄は必要です。一方、鉄は強い毒性を持ち、私達は老齢期には鉄を制限することが望ましい可能性を見出しました。『鉄といかにうまく付き合うか』は、成長、健康長寿の両方の観点から今後の重要な課題であると考えています。一方で、老化関連疾患の克服の観点からは、本成果が、今後の加齢研究や関連疾患の新たな制御法の開発につながることを期待しています。」(岩井一宏)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s44318-026-00939-1
【書誌情報】
Izumi Yanatori, Tasuku Hirayama, Raku Son, Yasuhiro Murakawa, Yuta Matsuoka, Yuki Sugiura, Masato Niwa, Tatsuya Katsuno, Masahiko Tsujimoto, Hiroyuki Yasui, Atsuyasu Sato, Makoto Nakanishi, Kazuhiro Iwai (2026). Safe lysosomal sequestration of ferrous iron is mediated via cholesterol shielding and drives senescence and ferroptosis resistance. The EMBO Journal.
日刊工業新聞(2026年11月3日 17面)に掲載されました。