化学反応は水内部より水表面でより速く進むのか?―気液界面の化学反応の超高速観測―

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 地球表面の約7割は海であり、大気中にはエアロゾルと呼ばれる微粒子や雨粒のような液滴が多数浮遊しています。こうした液体には必ず空気と接する境界である「表面(界面)」があり、特に表面に分子がある場合にはお風呂での半身浴のように分子の一部だけが水に浸った状態にあります。その結果、空気と水の境界では化学反応が水溶液の内部とは異なる速度で進む可能性があります。実際、大気科学や合成化学の研究で分野では、液体表面の反応が通常の水溶液中での反応よりも桁違いに速く進行することを示唆する例が見いだされています。ただ、反応が促進される原因として、疎水性(水を嫌う)分子が水の表面に集まりやすいために、表面の分子の濃度が内部より高くなる結果、見かけ上表面で反応が活発に見える場合もあります。では、もし1個の分子を水の表面に置いた場合と、水の内部に置いた場合では、反応速度は実際に異なるのでしょうか。もし違いがあるとすれば、一体どの程度違うのでしょうか。

 鈴木俊法 理学研究科教授と山本遥一 同助教の研究チームは、水溶液を真空中に噴出して微小な液体膜を作り、その表面にあるフェノールやインドール分子にレーザー光を照射して光化学反応を開始させ、反応速度を調べました。その結果、表面にある分子は、水の内部に比べて反応が約10倍速く進行することを確認しました。

 これまで固体触媒の上で化学反応が起こりやすくなることはよく知られていましたが、水の表面そのものが化学反応を促進するという結果は、環境科学や物質合成化学を深く理解するための新しい観点を提供すると共に、水表面の特異な化学環境を利用した反応制御の可能性を示すものであり、今後の研究の発展が期待されます。

 本研究成果は、2025年12月31日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

画像
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フェノールやインドール分子が浮かんだ水の表面の超高速観測。真空中に導入した膜状の液体を使って水の表面で進む反応の速度を精密に測定できる。

研究者のコメント 

「液体表面という特殊な環境にある分子の数は非常に少なく、その化学反応を精密にかつ高速に追跡することは技術的に非常に困難でした。今回、液体ジェットと最先端レーザーを用いた光電子分光法を組み合わせた新しい実験手段の開発によって、水溶液表面の化学反応を詳細に調べる突破口が開かれたことで、環境化学や物質科学の種々の問題を解決する前進が得られると期待しています。今後は、より複雑な化学反応の研究へと広げていきたいと考えています。」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1021/jacs.5c18369

 【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/298942

【書誌情報】
Yo-ichi Yamamoto, Toshinori Suzuki (2025). Charge Separation Dynamics of Aromatic Molecules at Aqueous Interfaces Revealed by Ultrafast Photoelectron Spectroscopy. Journal of the American Chemical Society, 148(1), 1524-1537.