日尾守 農学研究科修士課程学生(研究当時)と橋本渉 同教授らの研究グループは、レーズンを水に浸漬する(レーズン水)だけでワインができる仕組みの一端を明らかにしました。
19世紀には、レーズン(干しブドウ)はパン種に用いられており、レーズンに真核生物であるアルコール発酵性パン酵母が存在することが知られていました。また、レーズンを原料とするワインも製造されています。一方、ブドウにはアルコール発酵性酵母がほとんど検出されないことが報告されており、レーズンにおけるアルコール発酵性酵母の由来やレーズン水からワインができるプロセスでの微生物動態には不明な点が多く存在します。
本研究では、ブドウ、レーズン、およびレーズン水における微生物叢の動態を調べるとともに、レーズン水の発酵試験における成分変化を解析しました。その結果、ブドウと比較してレーズンにアルコール発酵性酵母が高頻度に検出されました。市販レーズンを水に浸漬した当初はアルコール発酵性酵母や糸状菌などの真核微生物ならびに原核生物である細菌の存在が認められますが、常温で静置すると発泡が観察されるとともに、ブドウ糖(グルコース)の減少に伴ってアルコール発酵性酵母が優占増殖し、アルコール濃度が8%以上に上昇しました。さらに、農園で採取したブドウを乾燥させた自作レーズンでも同様の発酵試験を行ったところ、天日干ししたレーズンと水からはワイン様の酒類が生じることが明らかになりました。
本研究では、ブドウを天日干しする過程でアルコール発酵性酵母が定着し、そのレーズン(干しブドウ)を水に浸漬するとレーズンに含まれるブドウ糖などを栄養源としてアルコール発酵性酵母が優占増殖することにより、ワインができあがることがわかりました。ブドウの足踏みにより古代ワインが誕生した通説がありますが、レーズンが一役担った可能性も示唆されます。なお、本研究は果実酒製造免許を取得して行いました。
本研究成果は、2025年11月25日に、国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。
「さまざまな微生物が活躍する自然発酵のメカニズムを分子レベルで明らかにしていくことで、個性豊かな酒類の創出につなげたい。」(日尾守)
「ブドウやレーズンをはじめ、種々の果実に常在する微生物叢と果実−微生物の相互作用に関わる分子メカニズムを明らかにし、自然発酵による新たな食品の創製やフードロス対策を目指したい。」(橋本渉)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-025-23715-3
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/298065
【書誌情報】
Mamoru Hio, Kensuke Murata, Ryuichi Takase, Kohei Ogura, Wataru Hashimoto (2025). Spontaneous fermentation of raisin water to form wine. Scientific Reports, 15, 39194.
毎日新聞(2025年12月1日 7面)に掲載されました。