池田貴子 生命科学研究科助教、木村郁夫 同教授らの研究グループは、近年新たに同定された脂肪酸受容体GPR164が、短鎖脂肪酸の一種である酪酸を介して大腸上皮細胞の分化や増殖を制御することにより、腸管バリア機能の維持に重要な役割を果たすことを明らかにしました。腸管バリア機能は異物が体内に侵入するのを防ぐ、生体防御システムです。この機能が損なわれると細菌や毒素などが体内に入り込み、血液を介して全身にも運ばれてしまうため、腸管内だけでなく全身で炎症が起こり、様々な病気を引き起こします。本研究では、これまで生体での機能が明らかでなかった新規の脂肪酸受容体GPR164が腸内細菌が産生する酪酸により活性化されることで、腸管のバリア機能を維持することを明らかにしました。酪酸は、腸管の免疫機能やバリア機能を高めることが知られています。しかし、酪酸がどのようにして腸管のバリア機能を高めるのか、についてはその詳細が明らかではありませんでした。本研究グループはGPR164の機能を明らかにすることで、酪酸による腸管バリア機能維持のメカニズムを分子レベルで明らかにすることができました。さらに本研究では、GPR164の機能不全が大腸上皮細胞の異常な分化や増殖を引き起こすことを見出しています。このことから、GPR164は炎症性腸疾患だけでなく、大腸がんの発症や進展にも関わる可能性があり、GPR164を標的としたこれらの疾患の予防や治療法の開発に応用されることが期待されます。
本研究成果は、2025年10月28日に、国際学術誌 「EMBO Reports」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s44319-025-00611-5
【書誌情報】
Takako Ikeda, Yuki Masujima, Keita Watanabe, Akari Nishida, Mayu Yamano, Miki Igarashi, Nobuo Sasaki, Hironori Katoh, Ikuo Kimura (2025). The free fatty acid receptor GPR164 maintains intestinal homeostasis and barrier function. EMBO Reports.