低酸素が呼び起こす脳内前駆細胞の新たな一面―脳血流を取り戻す新たな仕組み―

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 脳卒中は、世界で4人に1人が一生のうちに経験する主要な死因・後遺症の原因であり、その多くは脳の血管が詰まることで起こる脳梗塞です。脳の血管が詰まったままでは、酸素や栄養が神経細胞に届かず、細胞死が急速に進行します。そのため、できるだけ早く血流を再開させて脳への酸素供給を回復させることが極めて重要です。

 この度、眞木崇州 医学研究科講師、安田謙 同特定助教、月田和人 同特定助教(兼:帝京大学特任研究員)、桑田康弘 くわた脳神経内科・在宅クリニック院長らの研究グループは、マウス脳梗塞モデルとして一般的な一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)モデルの単一細胞RNAシーケンス公開データを統合解析し、脳内に存在する未熟なオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)が、脳梗塞後に酸素濃度を感知してその性質を大きく変化させることを明らかにしました。具体的には、重度の低酸素状態ではOPCが「血管新生型」に変化して損傷部位で血管を増やし、軽度の低酸素では「髄鞘形成型」となり髄鞘形成を進めることが分かりました。さらに、強い低酸素環境で前処理した「血管新生型」OPCをマウスに静脈注射すると、脳の血流回復と運動機能の改善が確認されました。

 本成果は、脳梗塞後のOPCの機能変化が低酸素環境の強さによって生じることを初めて系統的に示したものであり、脳梗塞後の血流回復を促す新しい細胞治療法の開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、2025年10月30日に、国際学術誌「Stem Cell Reports」にオンライン掲載されました。また、国際幹細胞学会(International Society for Stem Cell Research:ISSCR)からもプレスリリースされました。

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研究者のコメント

「脳梗塞は、救命できても多くの方が後遺症に苦しむ病気です。私たちは、脳が自ら回復しようとする力を最大限に引き出す仕組みを明らかにしたいと考えてきました。今回、低酸素という環境の中で脳内前駆細胞がその役割をダイナミックに変化させることを見いだし、再生医療への新しい道筋を示せたことをうれしく思います。今後は、この発見を臨床応用へと発展させ、脳卒中後の回復をより確実に支援できる治療の実現を目指します。」(眞木崇州、安田謙、月田和人)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2025.102687

【書誌情報】
Yasuhiro Kuwata, Ken Yasuda, Kazuto Tsukita, Akihiro Kikuya, Naoki Takayama, Narufumi Yanagida, Kimitoshi Kimura, Ryosuke Takahashi, Riki Matsumoto, Takakuni Maki (2025). Characterizing hypoxia-orchestrated post-stroke changes in oligodendrocyte precursor cells for optimized cell therapy. Stem Cell Reports, 102687.