決めるのは政府か消費者か!リバタリアン・パターナリズムを活かしたポリシー・ターゲティング

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 依田高典 経済学研究科教授を中心とする7名の国際共同研究チームは、行動経済学、機械学習、人工知能(AI)を融合させた新たな政策設計手法を開発しました。研究テーマは「電力の節約行動を促すには、誰にどのように報酬(リベート)を与えるのが最も効果的か」というもので、2020年夏には日本の約4,000世帯を対象に、全員に一律でリベートを与える方法、希望者のみに与える方法、介入を行わない方法の三つを比較する大規模な実験が実施されました。さらに、各家庭の属性に応じて最適な介入を割り当てるAIベースの手法「経験厚生最大化(Empirical Welfare Maximization:EWM)」を適用した結果、一律対応よりも個別に最適化された「ポリシー・ターゲティング」の方が、節電から得られる社会厚生の両面で優れていることが明らかになりました。自由な選択を尊重しつつ望ましい行動を後押しする「リバタリアン・パターナリズム」の考え方を、AIと組み合わせて現実の政策に応用した先進的な取り組みとして注目を集めています。

 本研究成果は、国際学術誌「Econometrica」への掲載が決定しています。

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家庭向け節電リベート政策において、全世帯に一律で報酬を提供する「完全パターナリズム」や、希望者のみに提供する「完全リバタリアン」では、いずれも社会厚生の差は統計的に有意とはならなかった。一方で、世帯の特性に応じて最適な介入を割り当てる「ポリシー・ターゲティング」に基づく政策のうち、三つの選択肢から柔軟に割り当てる「自己選抜付きポリシー・ターゲティング」では、夏季7日間の実証において1世帯あたり477円、全国で推計239億円にのぼる社会厚生の増加が見込まれ、他の政策を上回る効果が確認された。
研究者のコメント

「日米で活躍する日本人経済学者総勢7名による国際共同研究として取り組んだ本研究は、構想から出版までに8年を要した労作となりました。研究の過程では、シカゴ大学のスーパーコンピュータを駆使し、ようやく完成に至りました。このたび、経済学の伝統あるジャーナルに掲載されるという栄誉に恵まれ、長年の努力が報われたことを大変嬉しく思っております。とりわけ、本研究の意義をご理解のうえ、産官学連携プロジェクトとしての機会を与えてくださった環境省の皆様には、心より感謝申し上げます。今後も、日本の経済学の国際的なプレゼンスの向上と、根拠に基づく政策立案(EBPM)の推進に貢献してまいりたいと考えております。」(依田高典) 

研究者情報
メディア掲載情報

日刊工業新聞(2025年10月16日 24面)に掲載されました。