那須田周平 農学研究科教授、清水健太郎 横浜市立大学客員教授(兼:スイス・チューリッヒ大学(University of Zurich)教授)、岡田萌子 新潟大学助教(前:横浜市立大学特任助教)および半田裕一 京都府立大学教授らの研究グループは、国際10+コムギゲノムプロジェクトとの共同研究で、日本を代表する品種である農林61号を含む9品種の網羅的な遺伝子発現解析を行い、農林61号が他の品種にはない特徴的な染色体領域を持つことを明らかにしました。この領域には組織特異的に機能する新規遺伝子や病害抵抗性に関連する遺伝子が多く見つかり、今後の世界のコムギ安定生産に向けた新品種育成に有用な素材としてゲノム育種を推進すると期待されます。
本研究成果は、2025年10月6日に、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
「コムギは世界三大穀物のひとつで、世界の人口の約半分が主食としています。2050年には世界人口が100億人を超えると予測されており、限られた地球資源の中で安定的に食料を確保することが大きな課題となっています。食料資源の偏在の是正やフードロスの削減、水資源の確保など、さまざまな取り組みが必要ですが、その中でも『育種によって収量を高めること』は最も基本的で重要な対策の一つです。
今回紹介する論文は、2020年に発表された『国際コムギ10+ゲノムプロジェクト』に基づき、複数のコムギ品種のゲノム配列(遺伝情報)を詳しく解析し、その中で遺伝子がいつどの組織で働いているかを比較した研究です。コムギのゲノムは、A・T・G・Cの4つの塩基の並びで構成されていますが、本研究ではその配列の中にどのような遺伝子が存在し、どのような機能を持つのかを明らかにしました。その結果、世界のコムギ品種には、大きな遺伝子の種類と数の違いがあることが明らかになりました。
この成果により、ゲノム情報がより使いやすくなり、収量を左右する遺伝子の探索や、病気に強いコムギ、気候変動に負けないコムギなど、次世代の品種改良につながる応用研究が進むことが期待されます。」(那須田周平)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-025-64046-1
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/297452
【書誌情報】
Benjamen White, Thomas Lux, Rachel Rusholme-Pilcher, Angéla Juhász, Gemy Kaithakottil, Susan Duncan, James Simmonds, Hannah Rees, Jonathan Wright, Joshua Colmer, Sabrina Ward, Ryan Joynson, Benedict Coombes, Naomi Irish, Suzanne Henderson, Tom Barker, Helen Chapman, Leah Catchpole, Karim Gharbi, Utpal Bose, Moeko Okada, Hirokazu Handa, Shuhei Nasuda, Kentaro K. Shimizu, Heidrun Gundlach, Daniel Lang, Guy Naamati, Erik J. Legg, Arvind K. Bharti, Michelle L. Colgrave, Wilfried Haerty, Cristobal Uauy, David Swarbreck, Philippa Borrill, Jesse A. Poland, Simon G. Krattinger, Nils Stein, Klaus F. X. Mayer, Curtis Pozniak, 10+ Wheat Genome Project, Manuel Spannagl, Anthony Hall (2025). De novo annotation reveals transcriptomic complexity across the hexaploid wheat pan-genom. Nature Communications, 16, 8538.