土の奥深くは光の届かない暗闇です。この深く暗い場所で発芽してしまった植物は、発芽後最初に現れる茎である胚軸をもやし状の形で伸ばし、その胚軸の先に付く最初の葉である子葉は葉緑体を持たない状態に保ちつつ、早く地表に出ようとします。そして、子葉が地表に出ると、子葉は緑化して光合成を始めます。光合成は、クロロフィル(葉緑素)が光エネルギーによって活性化することによって始まりますが、このようなクロロフィルの活性化が過剰になると、細胞に害を与える場合があり、クロロフィルは「諸刃の剣」のような物質であると考えられてきました。さらに、このような光による害(光ストレス)は暗い場所で発芽した植物が初めて光に出会う時によく生じる現象であることも観察されていましたが、植物が光による害を回避し健全に光環境へ順応する仕組みについては明らかになっていませんでした。
立花諒 生命科学研究科日本学術振興会特別研究員(兼:英国ケンブリッジ大学(University of Cambridge)博士研究員、研究当時:生命科学研究科博士課程学生)、明間莉乃 同修士課程学生(研究当時)、中野雄司 同教授、宮川拓也 同准教授、山上あゆみ 同助教、田中亮一 北海道大学教授、小林康一 大阪公立大学教授、吉原晶子 同博士課程学生らの共同研究グループは、暗所で発芽した幼植物が明所へと育つ環境が変わる際に、幼植物を光ストレスから守る新しい遺伝子BPG4 HOMOLOGOUS GENE 2(BGH2)を発見しました。本研究グループは、2024年に「光によって発現誘導される葉緑体ホメオスタシスファクター(恒常性因子)」BPG4を発見していましたが、このBGH2はBPG4の相同性遺伝子でありながら、逆に「暗所において誘導される」という特徴を持っていました。さらにBGH2は、クロロフィル生合成のマスター転写因子GLK1/2の働きを暗所で抑制し、クロロフィル前駆体の過剰な合成を防ぐことによって、暗闇から初めて光に出会う植物が発生してしまう活性酸素発生やそれにより起きてしまう細胞死を抑制し、子葉の健全な緑化を促進する因子であることが明らかとなりました。
この研究成果は、植物が「暗闇から光へ」と適応する際に起こる葉緑体形成の分子メカニズムを明らかにすると同時に、植物の光ストレス耐性の制御や色素体制御による新植物の創製を目指す新技術開発、などに繋がると期待されます。
本研究成果は、2025年7月22日に、国際学術誌「The Plant Cell」に掲載されました。
「大気中の二酸化炭素増大による地球温暖化・気候異常変動が深刻化する現代において、大気中の二酸化炭素を吸収し植物体に固定する葉緑体を含む色素体の制御機構、それらの細胞内小器官を支え制御する植物個体レベルの成長制御機構の研究は一層重要になると考えられます。本研究によって発見した暗所発現型BGH2は、先に発見した明所発現型BPG4の相同性遺伝子ファミリーの一員であり、このことはBPG4遺伝子ファミリーが明所から暗所まで幅広く色素体の健全な発達の制御に貢献する鍵遺伝子ファミリーであることを示したという基礎研究の観点から重要な発見になると考えています。さらに、このBPG4遺伝子ファミリーは、植物成長制御技術の開発においても役立つ可能性が期待出来る遺伝子と考えられ、地球環境改善・食糧増産などに貢献する応用研究へも発展させることが可能だと考えています。」(中野雄司)
【DOI】
https://doi.org/10.1093/plcell/koaf180
【書誌情報】
Ryo Tachibana, Rino Akema, Akiko Yoshihara, Chihiro Ujihara, Kaisei Nishida, Shunshu Ri, Ayumi Yamagami, Takuya Miyakawa, Koichi Kobayashi, Ryouichi Tanaka, Takeshi Nakano (2025). Dark-inducible BGH2 suppresses GLK transcription factors and maintains plastid homeostasis to promote light adaptation. The Plant Cell, 37, 8, koaf180.