竹内万理恵 医学研究科博士課程学生、松永麻美 同助教、中川隆之 同研究員らの研究グループは、鳥類の有毛細胞再生過程における新たな分子メカニズムを明らかにしました。
我々哺乳類では、聴覚を司る有毛細胞は一度傷害を受けると再生しないため、感音難聴は改善しません。一方、鳥類では有毛細胞が傷害されると、支持細胞を起源に新たな有毛細胞が再生し、難聴が治ります。鳥類での支持細胞から有毛細胞への再生メカニズムの解明は、哺乳類における聴覚再生の手がかりになりますが、仕組みの多くは未だ明らかになっていません。これまでの研究成果から、鳥類の有毛細胞再生過程では、支持細胞がリプログラミングされたのち有毛細胞へ分化すること、この過程でエンドセリン受容体B2(EDNRB2)が特異的に発現することが解っていましたが、その具体的な機能は不明でした。本研究により、発生段階の鶏蝸牛において、EDNRB2は前駆細胞から有毛細胞あるいは支持細胞への分化の方向性が決定する時期にのみ発現していることが明らかになり、さらに、再生過程の鶏蝸牛において受容体の働きを阻害すると、前駆細胞の移動と有毛細胞への分化が抑制されることがわかりました。これらの結果から、再生過程におけるEDNRB2の機能は、前駆細胞の有毛細胞への運命決定、移動、分化成熟を調節することであると考えられました。本成果は、支持細胞から有毛細胞への再生時における細胞運命決定機構と分化過程の理解を深め、哺乳類での有毛細胞再生に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2025年7月8日に、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」に掲載されました。

「鳥類の難聴が回復することは1980年代初頭に発見されていましたが、哺乳類に応用するためにはどのような仕組みで再生するのかの詳細なメ カニズムを理解する必要がありました。鶏蝸牛でのRNA発現解析は世界的に取り組んでいる研究グループは少なく、手法開発に苦労しましたが、今回の研究で漸く仕組みの一端を示すことができました。これを機に哺乳類難聴治療のブレークスルーを目指し、さらに邁進したいと思います。」(松永麻美、竹内万理恵)