DNA塩基が見せた一瞬のねじれをとらえた―光損傷の仕組み解明の手掛かりに―

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 私たちの遺伝情報はDNAに含まれる4種類の核酸塩基のならび方によって記録されていますが、なぜ核酸塩基が遺伝情報の記録に用いられるようになったのかは全くの謎です。一つの説は、核酸塩基は紫外線を吸収してもエネルギーを高速に熱として外界に放出し、光化学反応による損傷を最大限に抑制するためというものです。このような性質は、特に原始地球において強力な紫外線が地表まで到達していた時代に必須とも考えられます。しかし、核酸塩基は本当に紫外線に対して安定なのでしょうか。

 鈴木俊法 理学研究科教授らの研究グループは、超高速光電子分光法と赤外分光法によって水溶液中の核酸塩基を調べ、紫外線を吸収したチミンやウラシルがC=C二重結合を強くねじった不安定な状態を形成することを発見しました。その時間は100億分の1秒程度で、日常の時間スケールから見ると取るに足らない短時間に見えますが、DNAの光損傷反応はより短時間に起こると考えられているため、DNAの光損傷過程に関与している可能性も疑われます。今後の研究の進展が期待されます。

 本研究成果は、2025年4月25日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

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ウラシルとチミンが紫外光を受けて生成する反応中間体の構造。C=C二重結合が強くねじれた構造を持ち、DNA・RNAの光化学に重要な役割を持つと推測される。
研究者のコメント
「遺伝情報は太古からDNAという形で脈々と受け継がれてきました。本研究は、生命の起源を分子レベルで探る手がかりになると考えています。また、紫外線による損傷が関与する皮膚がんなどの理解にもつながる成果です。こうした反応の出発点となる核酸塩基のふるまいを明らかにすることは、分子生命科学の基盤を深めるうえで重要です。今後は、より複雑な構造を持つDNAやRNAへと研究を広げていきたいと考えています。」
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1021/jacs.4c17415

【書誌情報】
Yuki Obara, Srijon Ghosh, Alexander Humeniuk, Shota Kamibashira, Shunsuke Adachi, Toshinori Suzuki (2025). Formation of Ground-State Intermediate during Electronic Relaxation of Pyrimidine Nucleobases. Journal of the American Chemical Society.