「ポストコロナ」で警戒すべき心不全パンデミック-SARS-CoV-2の持続感染は心不全リスクを高める可能性-

ターゲット
公開日

 升本英利 医学部附属病院特定准教授(兼:理化学研究所上級研究員)、朝長啓造 医生物学研究所教授、牧野晶子 同准教授、村田梢 理化学研究所研究員らの共同研究チームは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の持続的な感染が心不全のリスクを高める可能性があることを、ヒトiPS細胞を用いた実験で明らかにしました。

 本研究成果は、これまでほとんど報告のないヒト心臓組織に対するSARS-CoV-2の持続感染の影響を示したものであり、「ポストコロナ」においてパンデミックが危惧される心不全(SARS-CoV-2心筋症)の発症・進行メカニズムの解明や、治療法の開発に貢献すると期待できます。

 2019年から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックでは、爆発的なウイルス感染者数の増加が起こりました。この状況は将来、SARS-CoV-2の持続感染を素因とする「心不全パンデミック」に発展する可能性があります。

 今回、共同研究チームは、ヒトiPS細胞から作製した心臓マイクロ組織にSARS-CoV-2を感染させた「SARS-CoV-2持続感染モデル」を確立しました。これにより、SARS-CoV-2が持続的に感染したヒト心臓組織は、非感染組織に比べて、虚血性心疾患を模した低酸素ストレス下での心機能低下を引き起こしやすいことを明らかにしました。

 本研究成果は、2023年12月22日に、国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
心不全パンデミックを実験的に検証する生体模倣モデル「SARS-CoV-2持続感染モデル」
研究者のコメント

「ヒトiPS細胞を用いた今回の研究から明らかになった新型コロナウイルス持続感染による心筋症の発症・進行メカニズムは、将来の心不全のリスクに対する理解を深め、治療法の開発への新たな可能性を切り拓くものです。我々研究者は健康な未来を築くため、この知見を基にした対策と治療法の実現に向けて尽力してまいります。患者と社会に貢献する研究を追求し、科学が未来をより健康にする手助けとなるよう尽力します。」(升本英利)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.108641

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/286734

【書誌情報】
Kozue Murata, Akiko Makino, Keizo Tomonaga, Hidetoshi Masumoto (2024). Predicted risk of heart failure pandemic due to persistent SARS-CoV-2 infection using a three-dimensional cardiac model. iScience, 27(1):108641.