ミクロ空間内での化学反応で狙った有用物質を製造可能に―電子の注入制御によるグリーンな物質生産―

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 依光英樹 理学研究科教授、黒木尭 同特定准教授、江迤源 同博士課程学生(現:旭化成株式会社研究員)の研究グループは、ミクロ空間内で化学反応を行えるフローマイクロリアクターを活用して、有用物質の宝庫である多置換アルケンの効率的な合成法を開発しました。

 炭素―炭素二重結合(C=C)周辺部に複数の置換基をもつ多置換アルケンは、医農薬や機能性有機材料などの有用な有機物質によく見られる極めて重要な骨格です。多置換アルケンには置換基の配置にもとづいて性質の異なる最大6種類の異性体が存在するため、所望の有用な性質を示す一つの異性体のみを狙いすまして選択的に合成する必要があります。従来の選択的合成法は、特殊な出発原料を用いる方法や工程数の多い非効率的な方法に限られ、必要な多置換アルケンを効率よく自在に合成することは困難でした。本研究グループは、単純なアルキンを原料として、フローマイクロリアクターを用いてアルキンへの電子注入と置換基導入を制御することで、多置換アルケンの一つの異性体のみを狙いすまして合成することに成功しました。本研究成果により、有用物質の合成効率の飛躍的な向上が見込め、グリーンで持続可能な物質生産プロセス構築への大きな波及効果が期待できます。

 本研究成果は、2023年11月17日に、国際学術誌「Nature Synthesis」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「フローマイクロリアクターは省エネルギーと資源の有効利用の観点から学術界のみならず産業界においても大きな注目を浴びています。本研究では、これまでのフラスコを用いた従来法では実現不可能な反応をフローマイクロリアクターを用いることで実現し、多種多様な多置換アルケンの合成に成功しました。多置換アルケンは抗がん剤の成分になるなど非常に重要な分子骨格であり、本研究は有用分子のさらなる効率的合成法の開発につながります。」(江迤源)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s44160-023-00439-8

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/286977

【書誌情報】
Yiyuan Jiang, Takashi Kurogi, Hideki Yorimitsu (2024). Reductive stereo- and regiocontrolled boryllithiation and borylsodiation of arylacetylenes using flow microreactors. Nature Synthesis, 3(2), 192–201.