ハモグリバエにおけるコケ食の起源と多様化過程を解明

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 ハモグリバエ科の昆虫は、植物の潜葉虫(植物の葉の内部に潜り、その組織を食べる昆虫)として著しく種数の多いグループです。とくにほとんどの種は被子植物などの維管束植物を利用していますが、近年、タイ類やツノゴケ類(コケ植物の一群)の葉状体を利用する多様なハモグリバエ(以下、コケハモグリバエと呼称)が日本から発見されました。ハモグリバエ科において、コケを食べるという食性がいつごろ、どの系統で、どのように起こったのかは、約4.7億年に及ぶ食植性昆虫の多様化の歴史を理解する上で重要な示唆を与えます。

 加藤真 人間・環境学研究科教授(現:名誉教授)と山守瑠奈 フィールド科学教育研究センター助教、今田弓女 理学研究科助教と曽田貞滋 同教授(現:名誉教授)らの研究グループは、日本列島各地で得られたコケを利用するPhytoliriomyza属37種のハモグリバエを含む47種のハモグリバエを対象に、核とミトコンドリアの5遺伝子のDNA塩基配列を調べ、系統関係と分岐年代を推定しました。その結果、コケハモグリバエは単系統群であり、維管束植物を利用する系統(Liriomyzaグループ)と姉妹群の関係にあり、それらの分岐は始新世(約4040–4380万年前)に起こったことがわかりました。コケハモグリバエは、漸進世から中新世にかけて(約3400–533万年前)、タイ類とツノゴケ類の複数の属をまたぐように、餌となる植物(寄主植物)の転換を繰り返しながら多様化したことが明らかになりました。本研究は、コケ食昆虫が太古の昔に起源した「生きている化石」であるとする従来の見方とは対照的に、被子植物の繁栄する生態系において、コケと昆虫の相互作用が劇的に変化してきたという、植食性昆虫の進化史の新たな一面を明らかにしました。

 本研究成果は、2023年6月7日に、国際学術誌「Proceedings of the Royal Society B」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「コケは地球上で最初に上陸した緑色植物なので、コケを利用しているのは祖先的昆虫であると信じられてきました。確かに、コバネガやシトネアブのように、生きている化石というべき祖先的なコケ食昆虫がいますが、コケハモグリバエのように、維管束植物食からコケ食になった一群もいるということは、食植者の多様化を考える上で示唆的です。」(加藤真)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.2347

【書誌情報】
Makoto Kato, Luna Yamamori, Yume Imada, Teiji Sota (2023). Recent origin and diversification accompanied by repeated host shifts of thallus-mining flies (Diptera: Agromyzidae) on liverworts and hornworts. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 290(2000):20222347.