新型コロナウイルス・オミクロン株のBA.5系統およびBQ.1.1系統が、高温で増殖しづらいことを解明

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 野田岳志 医生物学研究所教授、村本裕紀子 同助教、後藤慎平 iPS細胞研究所教授、河岡義裕 東京大学特任教授らの研究グループは、デルタ株、BA.5系統、BQ.1.1系統の新型コロナウイルスをヒトiPS細胞から作製した肺胞上皮細胞に感染させ、37℃あるいは40℃で培養し、各ウイルスの増殖能を比較解析しました。

 新型コロナウイルス変異株のオミクロン株は、現在も流行を続けています。オミクロン株は、主に5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類されますが、近年はBA.5系統から派生したBQ.1.1系統やBA.2系統から派生したXBB系統などの変異株が多くの国で流行しています。オミクロン株は、これまでに流行してきたデルタ株等と比較すると比較的病原性が低い可能性が示唆されていますが、その理由については明らかにされていませんでした。

 本研究グループが、平熱時の肺の温度である37℃で各ウイルスの増殖能を解析したところ、すべてのウイルス(デルタ株、BA.5系統、BQ1.1系統)が肺胞上皮細胞で効率よく増殖することを確認しました。一方で、新型コロナウイルス感染により発熱した際の肺の温度である40℃で各ウイルスの増殖能を解析したところ、デルタ株ではウイルス増殖能が少ししか減弱しませんでしたが、BA.5系統では約1/1000に減弱し、さらにBQ.1.1系統ではウイルスがほとんど増殖しませんでした。

 本研究で得られた成果は、オミクロン株がデルタ株など従来の変異株と比較して低い病原性を示す理由のひとつと考えられます。さらに、オミクロン株感染に対する発熱応答が生体防御に重要な役割を果たす可能性を示唆しており、オミクロン株感染患者に対して解熱剤の適切な使用法を考える上で重要な情報になると考えられます。

 本研究成果は、2023年4月24日に、国際学術誌「The Lancet Microbe」にオンライン掲載されました。

 なお、オミクロン株感染患者の発熱応答と臨床症状・重症度との関係については現時点では明らかではなく、今回の結果は、オミクロン株感染患者に対する解熱剤の使用を否定するものではありません。

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異なる温度における新型コロナウイルスの増殖能
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/S2666-5247(23)00100-3

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284013

【書誌情報】
Yukiko Muramoto, Senye Takahashi, Peter J Halfmann, Shimpei Gotoh, Takeshi Noda, Yoshihiro Kawaoka (2023). Replicative capacity of SARS-CoV-2 omicron variants BA.5 and BQ.1.1 at elevated temperatures. The Lancet Microbe, 4(7), e486-e486.