大型果実樹木に対する大型動物による種子散布の意義―マダガスカルの森を育むキツネザルの役割を解明―

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 狩猟や環境破壊で大型動物が減った熱帯林では、大きな果実や種子をつくる植物種の世代更新がうまくいかないことが確認されています。しかし、大型動物がどのように植物の繁殖戦略に関わっているのかについてはまだ多くの謎に包まれたままです。

 佐藤宏樹 アジア・アフリカ地域研究研究科准教授は、マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園の熱帯乾燥林に生育する大型果実樹木2種を昼夜にわたって観察し、最大の果実食動物であるチャイロキツネザルだけが果実を飲み込んで種子を運ぶことを確認しました。さらにチャイロキツネザルに撒かれた種子の状況を森林内で実験的に再現し、その発芽から生存に至る過程を2年間追跡し、キツネザルによる種子散布がどのように植物の繁殖戦略に役立っているのかを調べました。ある樹種では種子が大量に種を撒かれることで一部の種子が日光の多い場所に到達し、高い確率で生き残ることができました。他の樹種では母樹の下に落ちた種子はげっ歯類や昆虫に食べられますが、母樹から遠く離れた場所に運ばれた種子は外敵から逃れて生き残ることができました。

 本研究は絶滅が危惧される大型動物が熱帯林の更新や生物多様性の維持に貢献していることを明らかにすると同時に、動植物の相互作用から成り立つ生態系を健全に保全することの重要性を示しています。

 本研究成果は、2022年11月21日に、国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

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研究対象の写真.(a) チャイロキツネザル、(b) Astrotrichilia asterotrichaの果実と種子、(c)Astrotrichilia asterotrichaの実生、(d) Abrahamia deflexaの果実、(e) Abrahamia deflexaの実生.

研究者のコメント

「これまではキツネザルを追って散布する種子の種多様性や量、散布する範囲などの種子散布者としての能力を評価してきました。今度は動物に種子散布者に頼る植物の目線に立ち、植物にとって動物がいかに役立っているかを検証したのがこの研究です。植物の果実生産や散布量、実生の生存など、動けない植物を追うために植物学のアプローチを多く取り入れました。真夜中の森で母樹と共に動物の訪れを待つこと数時間、漆黒の闇からチャイロキツネザルが現れ、大量の果実を飲み込んで再び闇に消えていくシーンを観察した時は、種子散布成功の喜びを母樹とともに分かち合えた気がしました。そのシーンの動画も本論文のオンラインサイトにて公開しているので、是非ご覧ください。」(佐藤宏樹)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-022-23018-x

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/278800

【書誌情報】
Hiroki Sato (2022). Significance of seed dispersal by the largest frugivore for large-diaspore trees. Scientific Reports, 12:19086.