大腸がん細胞の増殖運命の違いと薬剤感受性―その柔軟性を決めるメカニズム―

ターゲット
公開日

 がん細胞は同じ腫瘍内にあっても非常に多様です。遺伝子の変異やがん細胞のおかれている環境の差などによって不均一性がもたらされ、そのことががん治療の大きな障壁になっています。遺伝子変異による差は解析法の進歩によって研究が進んでいますが、遺伝子変異によらない差については未だ全貌が明らかにされていません。

 井上正宏 医学研究科特定教授、小濵和貴 同教授、鎌田真由美 同准教授、岡田眞里子 大阪大学教授、大植雅之 大阪国際がんセンター外科部長らの研究グループは、個々の大腸がん細胞が、どのような細胞増殖の運命をたどるかを解析し、大腸がん細胞は、はっきりと区別できる増殖運命を持つがん細胞集団が、分子レベルで制御されて柔軟に入れ替わっていることを突き止めました。また、薬剤耐性の元となる増殖の遅い細胞を分離して培養することに成功しました。今回の発見は がんの薬物療法耐性や治療後の再発などのメカニズムの解明と、それを標的とした治療法への応用が期待されます。

 本研究成果は、2023年1月13日に、国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
大腸がんから調製したオルガノイドを単細胞にして、スフェロイドを形成する能力と増殖する能力を評価したところ、がん細胞は異なる増殖運命を持つ二つの細胞集団で構成されていることが分かりました。集団の間は移行できますが、薬剤耐性の増殖の遅い集団から早い集団に移るには関門があります。いくつかの遺伝子や、抗がん剤暴露などによって、関門を超えることができます。

研究者のコメント

「がんオルガノイドはがんの不均一性やその可塑性を保持しており、今後の創薬で大きな役割を果たすと考えています。一方で、均質で安定した培養系である従来の細胞株を使った研究と違って、不均一性や可塑性は難しい研究テーマです。がんを克服するには、この難題に立ち向かわなければなりません。今回の研究がそういう流れの一端になることを期待しています。」

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.105962

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/278937

【書誌情報】
Roberto Coppo, Jumpei Kondo, Keita Iida, Mariko Okada, Kunishige Onuma, Yoshihisa Tanaka, Mayumi Kamada, Masayuki Ohue, Kenji Kawada, Kazutaka, Obama, Masahiro Inoue (2023). Distinct but interchangeable subpopulations of colorectal cancer cells with different growth fates and drug sensitivity. iScience, 26(2):105962.