新たな対称性を持つ反強磁性状態を実現―光格子による磁性の解明へ期待―

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 量子コンピュータの発展が日々注目を浴びるニュースになってきましたが、これと同様に重要な概念に「量子シミュレーション」があります。これは計算機のような汎用性を持たない代わりに、高温超伝導や素粒子物理など、特定の興味深い物理現象についての理論通りにふるまう、高度に制御された物質系のことです。

 高橋義朗 理学研究科教授、田家慎太郎 同助教、高須洋介 同准教授、およびKaden Hazzard 米ライス大学教授らの国際共同研究グループは、SU(N)ハバードモデルと呼ばれる理論モデルの量子シミュレーションの先駆けとして、反強磁性の相関(結晶格子の中で隣り合うスピンが違う向きに配列しようとする傾向)を観測することに成功しました。ここで「量子シミュレータ」として活躍したのは光格子と呼ばれる、レーザー光で作った格子に原子を閉じ込めるもので、ここ十数年で量子シミュレータとして大きく発展してきたものです。本研究ではこの光格子量子シミュレータとしてこれまでにない低温を実現することにも成功しました。この研究成果が、ハバードモデルを使って長年議論されてきた磁性や高温超伝導の理解を加速し、また、これまでに現実に存在しなかった新奇な物質の状態の実現に近づく重要な一歩になることが期待されます。

 本研究成果は、2022年9月1日に、国際学術誌「Nature Physics」にオンライン掲載、また、同誌に解説記事「A cool quantum simulator」が掲載されました。

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光格子のイメージ図。青はレーザー光による格子パターン、赤は相互作用する原子を表す。

研究者のコメント

「光格子SU(N)量子シミュレータは著者らの研究グループで10年来に渡り世界に先駆けて研究を続けてきたものです。今回の成果で、開発の準備段階から物理に迫る第一歩が踏み出せたと思っています。今後の発展にご期待頂ければ幸いです。」(田家慎太郎)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41567-022-01725-6

【書誌事項】
Shintaro Taie, Eduardo Ibarra-García-Padilla, Naoki Nishizawa, Yosuke Takasu, Yoshihito Kuno, Hao-Tian Wei, Richard T. Scalettar, Kaden R. A. Hazzard, Yoshiro Takahashi (2022). Observation of antiferromagnetic correlations in an ultracold SU(N) Hubbard model. Nature Physics, 18(11), 1356–1361.