植物の光合成初期過程の酸素発生活性を向上させるアミノ酸変異を発見—光合成・人工光合成の光エネルギー変換効率の向上へ期待—

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 光合成の初期過程では、光化学系IIと呼ばれるタンパク質と色素の複合体が、光エネルギーを利用して水から電子を引き抜き、電子を奪われた水は酸素分子へと分解されます。この、水から電子を取り出して酸素を生む「水分解-酸素発生反応」は、光エネルギーを化学エネルギーに変換する鍵となる反応です。

 伊福健太郎 農学研究科教授、今泉滉 生命科学研究科修士課程学生、西村太志 同博士課程学生(研究当時)、中野雄司 同教授らは、野口巧 名古屋大学教授、長尾遼 同特任助教(現:岡山大学特任講師)、石北央 東京大学教授、斉藤圭亮 同准教授との共同研究により、人工的な条件下で光化学系IIの水分解-酸素発生反応の活性を向上させるアミノ酸変異を発見しました。さらに、活性亢進のメカニズムに関して、光化学系IIの水分解-酸素発生反応の鍵となる部位付近に特異的に結合する機能未知の塩素イオンが、このアミノ酸変異によってより安定に結合することを示しました。これにより、上記の塩素イオンが光化学系IIの高効率な水分解-酸素発生反応に重要な因子である可能性を明らかにしました。

 今回の発見は、光合成の光エネルギー変換効率の制御に関する新たな知見を提供するものであり、今後、人工光合成研究の進展に貢献することも期待されます。

 本研究成果は、2022年7月24日に、国際学術誌「PNAS Nexus」にオンライン掲載されました。

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本研究のイメージ図
本研究で発見した変異は、光合成の光エネルギー変換を担うタンパク質複合体「光化学系II」の水分解-酸素発生反応の活性を向上させる。

研究者のコメント

「太陽光のエネルギーと水から、酸素を生み出しCO2を有用な化合物に変換する光合成。この仕組みを活用・応用することは、気候変動やエネルギー問題が深刻化する中で、持続可能な資源開発の実現への大きな前進をもたらす可能性があると考えています。本研究では、光合成の光エネルギー変換の効率を条件つきで向上させる変異を発見し、機能のわかっていなかった因子がこの効率に重要な可能性があることを見つけました。これからも、持続可能な社会の実現を目指して光合成研究に取り組んでいきます。」(今泉滉)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgac136

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/275956

Ko Imaizumi, Taishi Nishimura, Ryo Nagao, Keisuke Saito, Takeshi Nakano, Hiroshi Ishikita, Takumi Noguchi, Kentaro Ifuku (2022). D139N mutation of PsbP enhances the oxygen-evolving activity of photosystem II through stabilized binding of a chloride ion. PNAS Nexus, 1(3):pgac136.