Brain-Computer Interface操作の得手不得手に関わる脳回路を発見―操作を「考える」か「感じる」か、個人差に合わせた技術開発へ期待―

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 花川隆 医学研究科教授(兼:国立精神・神経医療研究センター特任部長)と笠原和美 産業技術総合研究所研究員らの共同研究グループは、Brain-Computer Interface(BCI)の操作が得意な人と苦手な人では脳の神経回路の使い方が異なることを発見しました。

 BCIとは、身体を動かさずとも情報機器が使えるようになることを目指し、動作を想像する際などに脳が発する信号を解読して意図を判定する発展途上の医工学技術です。しかし、脳に電極を埋め込まない非侵襲脳信号測定によるBCIの操作能力には個人差が大きく、上手く使えない人も多いのが現状です。

 本研究では、手の動きを想像する際に大脳表面の運動野が発する脳波信号を解読しパソコンのカーソルを操作する「脳波BCI」と、脳全体の活動を深部まで可視化する「機能的MRI」計測を同時に実施し、BCIが上手く操作できるときには「大脳基底核」と呼ばれる大脳深部にある神経核が活発に活動していることを発見しました。さらに操作が得意な人では「大脳基底核」が脳波BCIの信号源である運動野と機能的に繋がっていたのに対し、苦手な人では「大脳基底核」が運動野だけでなく認知や情動に関わる複数の大脳領域と複雑な繋がりを持っていました。このことからBCI操作に得手不得手のある理由の少なくとも一部は、BCIを操作する際の脳の神経回路の使い方の個人差によることが示唆されます。本研究成果は、将来、脳回路の使い方に合わせた訓練法の開発など、個人の特性に合わせたテーラーメイドBCI技術開発への応用が期待できます。

 本研究成果は、2022年7月16日に、国際学術誌の「Communications Biology」にオンライン掲載されました。

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大脳基底核を起点としたBCI操作中のネットワーク

研究者のコメント

「BCI開発が進めば、運動麻痺で動けない患者さんが「考える」だけでロボットや車椅子を操作することが可能になると言われています。一方、現在の非侵襲BCIの操作は容易ではなく、操作能力の個人差が医工学技術としても治療技術としても応用への壁となっています。今回、脳波と機能的MRIの同時計測によって、BCI操作能力の個人差の一部を神経回路の違いとして明らかにすることが出来ました。BCIの操作は一生懸命「考える」よりも直感的に「感じる」のが良いのかもしれません。本研究成果が、BCI発展の一助となり、将来的には治療技術として広く利用されることを期待しています。」(花川隆)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s42003-022-03665-6

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/275830

【書誌情報】
Kazumi Kasahara, Charles S. DaSalla, Manabu Honda, Takashi Hanakawa (2022). Basal ganglia-cortical connectivity underlies self-regulation of brain oscillations in humans. Communications Biology, 5:712.