2013年から2018年にかけた京都市における肺がん患者の初期治療、医療費及び生存割合の変化

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 肺がんは死因の多くを占める疾患の一つであり治療に伴う医療費負担も大きな課題です。近年薬物療法を中心にその治療方法が変化しており、実臨床における治療内容、治療効果、および医療費の詳細な検討が必要になっています。

 石見拓 医学研究科教授、中山健夫 同教授、島本大也 同特定助教、立山由紀子 同特定助教、小林大介 環境安全保健機構助教、高橋由光 医学研究科准教授、植嶋大晃 国際高等教育院特定講師、佐々木康介 医学研究科大学院生らと、京都市、アストラゼネカ株式会社、株式会社ヘルステック研究所の共同研究グループは、京都市が保有する統合データ(国民健康保険および後期高齢者医療制度加入者の医療レセプト、健診結果、介護認定情報、介護レセプト等を統合したデータベース)を用い、新規発症の原発性肺がん患者において患者の背景、初回治療内容、生存期間、各治療の医療費を算出しました。

 4,845名が研究の対象となり初回治療として手術を受けた割合が35.2%から39.6%まで経年的に増加し、2年以内に死亡する患者の割合は2013年度42.7%から2016年度の36.8%まで改善していました。全ての肺がん患者に対する手術、薬物療法、放射線療法それぞれの年間医療費の合計は、いずれの治療法においても経年的に増加しており、特に薬物療法における医療費が386,113千円から606,397千円へと著しく増加していました。更に、2015年度以降は免疫チェックポイント阻害薬の使用者数及び費用が増大し、2018年度には薬物療法費用全体の約60%を占めている結果が示されました。

 本研究において、2010年代における肺がん治療の変化と生存割合の経年的な改善経過が記述され、一つのベンチマークとして重要なデータが示されました。一方で、経年的な医療費の増大も明確となり、予防施策の強化等によって医療費の増加を抑制することの重要性も改めて浮き彫りとなりました。

 本研究成果は、2022年6月28日に、国際学術誌「Value in Health Regional Issue」にオンライン掲載されました。

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図:肺がん患者の死亡割合の経年変化
2年以内の死亡割合に対し経年的な減少が統計学的有意をもって示されました。
※2018年度までのデータを使用しているため、観察期間の長さが年度によって異なります。

研究者のコメント

「京都市の有するデータを用いて、肺がん治療の変化と生存割合の経年的な改善、医療費の増大といった医療の実態を明らかにするとともに、予防施策の強化等によって医療費の増加を抑制することの重要性を示すことが出来ました。解析に際しては統合データベースに関する背景知識、日本の医療費請求の制度や保険制度に関する知識、肺がんの治療に関する臨床的な知識といった広範な知見が必要であり、京都市の皆様や共著者の先生方を始めとしたチームとしての協力がとても重要でした。これからも肺がんをはじめ、様々なテーマで同データベースを解析し、京都市民、社会にその成果を還元して参る所存です。」(島本大也)

「自治体の持つビッグデータに含まれる価値を十分に引き出し、社会還元するためには、今回のような産官学民連携した取り組みが不可欠であり、こうした取り組みを継続できる体制の構築を目指しています。」(石見拓)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.vhri.2022.05.004

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/275670

【書誌情報】
Tomonari Shimamoto, Yukiko Tateyama, Daisuke Kobayashi, Keiichi Yamamoto, Yoshimitsu Takahashi, Hiroaki Ueshima, Kosuke Sasaki, Takeo Nakayama, Taku Iwami (2022). Temporal Trend in an Initial Treatment, Survival, and Medical Costs Among Patients With Lung Cancer Between 2013 and 2018 in Kyoto City, Japan. Value in Health Regional Issues, 31, 163-168.