炎症性疾患を制御する新たな核酸医薬の開発―免疫のブレーキであるレグネース-1の自己制御を標的に過剰免疫を抑制する試み―

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 竹内理 医学研究科教授らの研究グループは、免疫細胞の活性化や炎症を抑えるブレーキとしての働きをもつRegnase-1(レグネース-1)のはたらきを増強することで、免疫細胞の活性化を抑え、急性呼吸促拍症候群や、肺線維症、多発性硬化症モデルマウスの病状を改善する方法の開発に成功しました。

 レグネース-1はRNA分解酵素として働き、サイトカインなど炎症や免疫細胞活性化に関わるタンパク質をコードするmRNAのステムループ構造を認識して分解することで免疫応答のブレーキとして機能しています。レグネース-1はヒト自己免疫疾患の病態に関与することが明らかとなりつつありますが、レグネース-1を標的とした免疫疾患制御法は開発されていませんでした。

 本研究では、レグネース-1タンパク質が自己mRNAを3’非翻訳領域に存在する2か所のステムループ構造を介して分解することを利用して、レグネース-1の発現を増加させる方法を開発しました。そのため、レグネース-1 mRNAのステムループ構造を壊すようにアンチセンスオリゴ核酸を設計、細胞に導入したところ、レグネース-1タンパク質による抑制が解除され、レグネース-1の発現が増加しました。これにより、免疫のブレーキ機能が増強され、マクロファージでの炎症性サイトカイン産生が抑制されたことに加え、マウス個体において、急性呼吸促拍症候群や、肺線維症、多発性硬化症モデルマウスの病状を改善しました。また、ヒト多発性硬化症患者において、レグネース-1の血液細胞における発現とMRI検査で認められる病変部位の大きさに逆相関があることも分かりました。本制御法は、ヒトレグネース-1にも応用可能であることも明らかとなりました。

 本研究成果は、2022年5月11日に、国際学術誌「Science Translational Medicine」にオンライン掲載されました。

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レグネース-1によるRNA分解を通じた炎症抑制メカニズム(左)と、レグネース-1による自己mRNA分解を標的にしたアンチセンスオリゴ核酸による新たな炎症制御法の開発(右)
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/scitranslmed.abo2137

【書誌情報】
Ka Man Tse, Alexis Vandenbon, Xiaotong Cui, Takashi Mino, Takuya Uehata, Keiko Yasuda, Ayuko Sato, Tohru Tsujimura, Fabian Hia, Masanori Yoshinaga, Makoto Kinoshita, Tatsusada Okuno, Osamu Takeuchi (2022). Enhancement of Regnase-1 expression with stem loop–targeting antisense oligonucleotides alleviates inflammatory diseases. Science Translational Medicine, 14(644):eabo2137.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(5月12日 21面)に掲載されました。