細胞内リン酸化修飾の大規模計測に成功 -極微量試料からのリン酸化経路解析も可能に-

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 生体内では、タンパク質のリン酸化修飾は細胞内のシグナル伝達にとって最も重要なメカニズムの一つで、様々な疾病と深く関連しています。近年、質量分析を用いて細胞内のリン酸化修飾を解析するリン酸化プロテオミクスの発展により、様々なサンプルの個々のリン酸化部位に関する情報を大規模に収集することが可能になりました。しかし、限られた試料量からキナーゼ-基質関係に基づくリン酸化経路を明らかにする汎用的な手法はありませんでした。

 このような問題を解決するために、石濱泰 薬学研究科教授、小形公亮 同特定助教、Chia-Feng Tsai 薬学研究科・日本学術振興会外国人特別研究員(現:米国太平洋北西国立研究所研究員)らの研究グループは、基質のリン酸化モチーフ配列を利用した多重同重体標識リン酸化プロテオミクス法を開発し、標的リン酸化ペプチドの選択的かつ包括的な定量を行いました。特に、25μgの試料から7,000以上のチロシンリン酸化部位を定量し、既存法の感度・同定数を数百倍向上させることに成功しました。これにより、個別化医療、精密医療の実現への指向が進む現在において、ゲノム情報などでは記述できない、より精密な分子情報としてのリン酸化修飾プロファイルの有効活用に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2022年1月14日に、国際科学誌「Cell Reports Methods」にオンライン掲載されました。

同重体標識による高感度化の模式図
図:同重体標識による高感度化の模式図
書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1016/j.crmeth.2021.100138

【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/267848

Chia-Feng Tsai, Kosuke Ogata, Naoyuki Sugiyama, Yasushi Ishihama (2022). Motif-centric phosphoproteomics to target kinase-mediated signaling pathways. Cell Reports Methods, 2(1):100138.