スーパー作物キヌアにおける遺伝子機能の解析技術を開発 -優れた環境適応性や栄養特性の謎を解き、作物開発を加速化-

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 安井康夫 農学研究科助教は、国際農研、岩手大学、株式会社アクトリーと共同で、キヌアにおける遺伝子機能の解析技術を世界で初めて開発しました。

 南米アンデス原産のキヌアは、栄養バランスに優れているため、米国航空宇宙局(NASA)は、宇宙飛行士の食料として注目してきましたが、近年、世界中でスーパーフードとして人気が高まっています。また、干ばつなどの過酷な環境でも栽培できることから、国際連合食糧農業機関(FAO)は、世界の食料・栄養問題解決の切り札になり得る作物として注目しています。しかし、ゲノム構造が複雑であることなどの理由により、これまでキヌアの遺伝子レベルでの解析は、あまり進んでいませんでした。

 本研究グループは、2016年に世界で初めてキヌアのゲノムを解読し、2020年には、キヌア系統の多様性を明らかにしました。これらの成果をもとに、本研究では、新手法を用いて、キヌア遺伝子の働きを調節することにより、キヌアの葉や茎などの色や背丈、花の形などを制御することに成功しました。この技術の開発によって、個々のキヌアの遺伝子の機能や役割を調べることが可能になり、キヌアの持つ優れた栄養特性や高い環境適応性に関わる機構の解明に道が拓かれました。本研究の成果により、原産国のボリビアなどの南米諸国のみならず、我が国を含む100カ国以上に普及しつつあるキヌアの栽培国において、優れた栄養特性を持ち過酷な環境に適応できるスーパー作物キヌアの品種開発が加速化し、世界の食料安全保障や栄養改善、飢餓の撲滅(SDGs目標2「飢餓をゼロに」)に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2021年3月18日に、国際学術誌「Frontiers in Plant Science」のオンライン版に掲載されました。

本研究の概要図
図:(図1)ALSVベクターにより、キヌアの遺伝子発現を抑制することができる(図2)キヌアのCqDODA1あるいはCqCYP76AD1遺伝子の働きを抑制すると、ベタレイン色素含量が減少する
(図3)キヌアのCqRHT1遺伝子の働きを抑制すると、形態形成に異常が見られる
研究者情報
書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.3389/fpls.2021.643499

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/262143

Takuya Ogata, Masami Toyoshima, Chihiro Yamamizo-Oda, Yasufumi Kobayashi, Kenichiro Fujii, Kojiro Tanaka, Tsutomu Tanaka, Hiroharu Mizukoshi, Yasuo Yasui, Yukari Nagatoshi, Nobuyuki Yoshikawa and Yasunari Fujita (2021). Virus-Mediated Transient Expression Techniques Enable Functional Genomics Studies and Modulations of Betalain Biosynthesis and Plant Height in Quinoa. Frontiers in Plant Science, 12:643499.