北川宏 理学研究科教授、草田康平 同特定助教(現・白眉センター特定准教授)、呉冬霜 同特定研究員らの研究グループは、高活性かつ高耐久性を有する水電解触媒の開発に成功しました。
水電解技術は電力エネルギーにより水を分解して化学エネルギーである水素を製造するプロセスであり、特に欧米では再生可能エネルギーを利⽤した水素製造により CO2排出量ゼロ実現へ大きく貢献する技術として大きな注目を得ています。本研究グループは、酸性溶液中で水の完全分解を高活性に⻑時間促進するルテニウム–イリジウム(Ru–Ir)合金電極触媒の開発に成功しました。この触媒は特徴的な珊瑚形状をしたナノ 構造体であり、3 nm(3×10-9 m)程度のRu–Ir合金ナノシートの集合体です。水電解はカソードでの水素発生反応(HER:Hydrogen Evolution Reaction)とアノードでの酸素発生反応(OER:Oxygen Evolution Reaction)の2つの半反応から構成され、HERは白金(Pt)、OERはIrで広く研究されています。一方、Ruも高いOER活性を有することが知られていますが、酸性溶液中では反応電位で著しく溶出し、急激に触媒活性が悪くなることが問題でした。
本研究で開発した珊瑚形状をしたRu–Irナノ合金(RuIr ナノコーラル)はHER、OER両反応に対して非常に高い活性を有することに加え、極めて高い耐久性をも示すことがわかり、従来のPtとIrO2(酸化イリジウム)を使用した場合に比べ、低コストかつ高性能な水電解の実現に成功しました。
本研究成果は、2021年2月17日に、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。 また、物質基本特許として「異方性ナノ構造体及びその製造方法並びに触媒(特願 2017-249511)」を出願中 (出願人:京都大学)です。
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-021-20956-4
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/261722
Dongshuang Wu, Kohei Kusada, Satoru Yoshioka, Tomokazu Yamamoto, Takaaki Toriyama, Syo Matsumura, Yanna Chen, Okkyun Seo, Jaemyung Kim, Chulho Song, Satoshi Hiroi, Osami Sakata, Toshiaki Ina, Shogo Kawaguchi, Yoshiki Kubota, Hirokazu Kobayashi & Hiroshi Kitagawa (2021). Efficient overall water splitting in acid with anisotropic metal nanosheets. Nature Communications, 12:1145.
朝日新聞(2021年3月22日夕刊 3面)、京都新聞(2月18日 27面)および日刊工業新聞(2月17日 27面)に掲載されました。