鉄の磁石の「表面の謎」を解明 -一原子層単位の深さ精度で磁性探査する新技術を開発-

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 瀬戸誠 複合原子力科学研究所教授、小林康浩 同助教、三井隆也 量子科学技術研究開発機構上席研究員、綿貫徹 同次長、上野哲朗 同主任研究員、境誠司 同プロジェクトリーダー、李松田 同主任研究員、増田亮 弘前大学助教、赤井久純 東京大学特任研究員の研究グループは、スピントロニクスデバイスへの応用等に期待される放射光メスバウアー線源を利用して材料の表面付近の磁性を一原子層単位の深さ精度で調べることが出来る新しい計測技術を開発しました。

 この技術を用いて、磁石の代表とも言える鉄についてこれまで謎だった表面付近の磁性を詳しく調べた結果、表面から深くなるにつれて磁力が一原子層毎に増減している複雑な現象を世界で初めて明らかにし、この現象が約40年前に理論的に提案されていた「磁気フリーデル振動」であることを突き止めました。本成果は、人類が数千年にわたって使用してきた材料である鉄における新たな発見という点において、学術的に意義深いものであると考えられます。

 本研究グループは、本開発により実現した局所磁性探査技術の特長を活かして、磁石のミクロな振る舞いにより動作するスピントロニクスデバイスなど高速・省エネルギーな次世代情報デバイスの開発を目指し、磁性材料など異なる材料をナノメートルスケールで積層した多層膜の各層の内部や界面の局所磁性の分析に活用していく予定です。

 本研究成果は、2020年12月4日に、国際学術誌「Physical Review Letters」に掲載され、「PRL Editors’ Suggestion」に選ばれました。

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図:鉄表面で生じる磁気フリーデル振動の模式図
書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.125.236806

T. Mitsui, S. Sakai, S. Li, T. Ueno, T. Watanuki, Y. Kobayashi, R. Masuda, M. Seto, and H. Akai (2020). Magnetic Friedel Oscillation at the Fe(001) Surface: Direct Observation by Atomic-Layer-Resolved Synchrotron Radiation 57Fe Mössbauer Spectroscopy. Physical Review Letters, 125(23):236806.