小惑星イトカワで発達した金属鉄のひげ状結晶を発見 -宇宙における鉄と硫黄の化学進化を知る鍵-

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三宅亮 理学研究科准教授、 松本徹 九州大学・ 日本学術振興会特別研究員、野口高明 九州大学教授、 Dennis Harries ドイツ・イエナ大学 研究員、Falko Langenhorst 同教授の研究グループは、探査機はやぶさが小惑星イトカワから持ち帰った微粒子の表面に、地球外物質では全く知られていない、ひげ状に伸びた金属鉄の結晶を発見しました。

硫化鉄 (FeS) は小惑星や彗星の物質に豊富に含まれますが、その天体表面での変化はよくわかっていませんでした。本研究グループは、イトカワ微粒子に含まれる硫化鉄の表面を電子顕微鏡で観察し、金属鉄のひげ状結晶が硫化鉄表面に広く分布することを発見しました。硫化鉄の表面は硫黄の量が少ないことから、太陽風の照射によって硫化鉄中の硫黄原子が選択的に失われ、鉄原子が過剰になった結果、金属鉄が成長したと推定しました。

小惑星表面は硫黄に欠乏することが観測から示唆されており、本研究は硫黄の消失が実際に起きる証拠とその仕組みを初めて示しました。この成果は、小天体の形成史や、生命にとって重要な地球への硫黄の輸送量の理解につながると期待されます。一方、恒星の間の空間(星間空間)では、荷電粒子の照射が硫化鉄の塵を分解し、金属鉄と硫黄の分離を引き起こすと予想されてきました。本研究はこの仮説を強く支持し、太陽系の材料となった星間空間の硫黄と鉄の挙動に対する理解を前進させました。

本研究成果は、 2020年2月28日に、 「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

図:イトカワ微粒子の走査型電子顕微鏡写真。(左)分析したイトカワ粒子のひとつ。(中央)硫化鉄(紫色)表面の金属鉄のひげ状結晶(青色)。(右)ひげ状結晶の拡大図。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-020-14758-3

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/246205

Toru Matsumoto, Dennis Harries, Falko Langenhorst, Akira Miyake & Takaaki Noguchi (2020). Iron whiskers on asteroid Itokawa indicate sulfide destruction by space weathering. Nature Communications, 11:1117.