強酸性土壌への適応が植物個体群の遺伝的多様性をゼロにすることを解明 -東北地方で起きた温泉植物ヤマタヌキランの進化-

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阪口翔太 地球環境学堂助教、長澤耕樹 同修士課程学生らの研究グループは、東北地方の温泉地で進化したと考えられる植物のヤマタヌキランについて遺伝解析を行った結果、土壌への適応性の違いによって本種の種分化が促進されたことを実証し、さらに火山の強酸性土壌という特殊な環境に適応したことによって、遺伝的多様性が完全に失われたことを明らかにしました。

ヤマタヌキランは温泉地のpH=2-3という強酸性土壌に適応しており、本研究グループはその遺伝分析を行うことで温泉植物の進化プロセスと遺伝的多様性の変化を解明することを目指しました。調査の結果、ヤマタヌキランの遺伝的多様性は姉妹種(最も近縁で祖先的な性質をもつと考えられる種)の30%しかないことが分かりました。

さらにシミュレーション分析によって、東北地方の各地の火山でどのような遺伝的多様性の変化が起きたのかを推定したところ、本種が東北北部から南部に分布を広げるなかで、段階的に遺伝的多様性を減らしていった過程が復元されました。とくに分布の南限にあたる福島県磐梯山の個体群では、調査した全ての遺伝子で1つの遺伝子型しか見つからず、ゲノム全体にわたって遺伝的多様性が完全に失われていました。

本研究から、強酸性土壌に適応することでヤマタヌキランは火山地帯で繁栄を手にしたものの、火山特有の攪乱や火山内に閉じ込め続けられたことにより、遺伝的多様性が著しく損なわれたと考えられます。この遺伝的多様性の低さは、野生の環境に生きる植物では例外的なレベルであり、植物の遺伝的多様性研究においても特筆すべき事例となりました。

本研究成果は、2019年12月27日に、国際学術誌「Molecular Ecology」に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1111/mec.15324

Koki Nagasawa, Hiroaki Setoguchi, Masayuki Maki, Hayato Goto, Keitaro Fukushima, Yuji Isagi, Yoshihisa Suyama, Ayumi Matsuo, Yoshihiro Tsunamoto, Kazuhiro Sawa, Shota Sakaguchi (2019). Genetic consequences of plant edaphic specialization to solfatara fields: Phylogenetic and population genetic analysis of Carex angustisquama (Cyperaceae). Molecular Ecology, 29(17), 3234-3247.