がんに遺伝子変異を導入する酵素の分子スイッチを発見 -リン酸化によるDNAシトシン脱アミノ化酵素の活性制御機構-

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高折晃史 医学研究科教授、白川康太郎 医学部附属病院助教、松本忠彦 医学研究科研究員らの研究グループは、がんに遺伝子変異を導入する酵素APOBEC3Bの分子スイッチを発見しました。

がんは経過とともに蓄積する遺伝子変異によりクローン進化を引き起こし、これによって抗がん剤への治療反応性が失われ、薬剤耐性化を誘導してしまいます。先日、本研究グループは骨髄腫のクローン進化に内在性のDNAシトシン脱アミノ化酵素であるAPOBEC3Bが関与していることを明らかにしました。APOBEC3Bは変異源となり得るため、厳密に酵素活性が調整されているはずですが、現在までこの酵素活性を生理的に抑制する機構は知られていませんでした。

本研究グループはプロテインキナーゼA(PKA)がAPOBEC3Bの214番目のスレオニンをリン酸化することで、その酵素活性がほとんど消失することを発見しました。 一方でこのリン酸化は、APOBEC3Bの有する抗レトロエレメント活性などの内因性免疫機能を依然保持していることをも明らかにしました。APOBEC3Bのリン酸化は「遺伝子変異を制御し、従来の抗がん剤治療への感受性を維持する」という新たなコンセプトのがん治療の一つの戦略となりうることを示唆しています。

本研究成果は、2019年6月5日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-019-44407-9

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/241722

Tadahiko Matsumoto, Kotaro Shirakawa, Masaru Yokoyama, Hirofumi Fukuda, Anamaria Daniela Sarca, Sukenao Koyabu, Hiroyuki Yamazaki, Yasuhiro Kazuma, Hiroyuki Matsui, Wataru Maruyama, Kayoko Nagata, Fumiko Tanabe, Masayuki Kobayashi, Keisuke Shindo, Ryo Morishita, Hironori Sato & Akifumi Takaori-Kondo (2019). Protein kinase A inhibits tumor mutator APOBEC3B through phosphorylation. Scientific Reports, 9:8307.

  • 京都新聞(6月12日 27面)に掲載されました。