宇宙飛行による眼病発症のメカニズムを解明しました

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掛谷一弘 工学研究科准教授、篠島亜里 仏ラリボアジエール病院研究員、多田智 大阪大学招聘教員らの研究グループは、長期宇宙滞在後の宇宙飛行士に見られる、眼球の後ろが平たくなる眼球後部平坦化、および眼球と繋がる視神経を取り囲む視神経鞘の拡大について、その本質的な病因を明らかにしました。近い将来に人類が直面する宇宙特有の病気に対して、その予防策や治療法の開発への貢献が期待される成果です。

本研究成果は、2018年7月6日にアメリカ医学会発行の学術誌「JAMA Ophthalmology」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から掛谷准教授、篠島研究員、多田招聘教員

本研究論文の著者は、それぞれ10年以上違う分野で活躍してきた研究者です。著者は各々の研究をするためにフランス・パリへ来ていましたが、パリ若手物理学者の会という日本人コミュニティの勉強会で偶然出会いました。日本国内に留まっていては起こることのない交流から、領域をまたいだこの研究が始まったのです。それとは別に、各々がフランスと共同研究をし成果を上げています。内向きだと言われている日本の大学生・大学院生にとって、海外で研究をするということは、実際には難しいと考えるかもしれませんが、ここを打破して、日本の学術界・産業界から新しい価値が創造されることを期待しています。

概要

宇宙に長期滞在すると、宇宙飛行士の体には微小重力の影響による異常が現れてくることが知られています。その例として、眼球の後部がつぶれ、眼球と脳をつなぐ視神経の周辺組織が変形することが報告されていますが、その起源は解明されていませんでした。

本研究グループは、長期宇宙滞在後の宇宙飛行士に見られる、眼球の後ろが平たくなる眼球後部平坦化、および眼球と繋がる視神経を取り囲む視神経鞘の拡大について、文献に発表されている宇宙飛行士などのデータを用いて解剖学的・材料力学的に検討しました。その結果、これらの眼病の本質的な原因として挙げられるのは、大脳の上方への移動であり、一部の宇宙飛行士に見られる宇宙飛行士脳脊髄圧の上昇だけでは視神経鞘径の拡大を説明することが不可能であることを明らかにしました。

このように宇宙飛行によって生じうる眼病の発症原因を明らかにすることで、一般人も宇宙に行く近未来に、人類が直面する宇宙特有の病気への対応策の立案に貢献できると期待されます。

図:長期飛行を終えた帰還後の宇宙飛行士に、眼球後部平坦化(青矢印)や視神経鞘拡大(赤矢印)が、MRI画像で報告されている。その機序として、著者らは視交叉上方移動(緑色矢印)に続く、視神経の後退(黄色矢印)、拡大・変形(赤矢印)を論文の中で指摘した。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1001/jamaophthalmol.2018.2635

Ari Shinojima, Itsuhiro Kakeya, Satoru Tada (2018). Association of Space Flight With Problems of the Brain and Eyes. JAMA Ophthalmology, 136(9), 1075-1076.