2次元半導体中で電子の波の情報が失われるメカニズムを解明 -将来の高速省エネルギー光デバイスの実現に期待-

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宮内雄平 エネルギー理工学研究所准教授、松田一成 同教授、小鍋哲 東京理科大学講師(現・法政大学准教授)らの研究グループは、将来の光電子デバイス材料として期待される2次元原子層半導体材料の「単層遷移金属ダイカルコゲナイド」において、「バレー」と呼ばれる電子の波の状態の情報が失われるメカニズムを明らかにしました。

本研究成果は、2018年7月3日に英国の科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

オプトバレートロニクスは、ナノサイエンス・ナノテクノロジーの近年の急速な発展を背景に、「バレー」という未だ利用されたことがない電子の自由度を使うことで、現在のデバイスでは原理的に達成不可能なレベルの省エネルギー化、情報処理の高速化を目指す、新しいオプトエレクトロニクスの概念です。現時点では、材料についても、バレー自由度の制御方法についてもわからないことが多く、世界中の研究者が、それが本当にできるかどうか、の原理検証を進めている段階です。

本研究成果は、たくさんある「わからないこと」の中でも重要な、バレー情報が失われるメカニズム、の理解を1歩前に進めるものです。このような、技術の土台となる科学的知見を一つ一つ着実に積み上げていくことで、オプトバレートロニクスという新概念が画期的な応用技術の実現に本当につながりうるかどうかが、徐々に浮かび上がってくると考えています。

概要

電子の「バレー」の情報をデジタル情報処理の0と1に対応させて利用する概念を「オプトバレートロニクス」といい、高速かつ省エネルギーな光電子デバイスを実現できるとして近年世界的に注目されています。オプトバレートロニクスを実現するには、バレーの情報をできるだけ長時間保持できることが必要ですが、実際にはきわめて短時間に情報が失われてしまい、そのメカニズムも不明でした。

本研究グループは、二セレン化タングステンと呼ばれる代表的な遷移金属ダイカルコゲナイドの単層膜をモデルケースとして、実験と理論の両面から、バレーの情報が失われるメカニズムを明らかにしました。さらに、このメカニズムに基づいて半導体材料に工夫を施すことで、バレー状態をより長く保つことができることを見出しました。

本研究成果は、2次元原子層半導体の光物性の謎が明らかになったという基礎科学的な意義に加えて、オプトバレートロニクスの実現に向けて材料設計に工学的な指針を与えるものであり、将来の高速・省エネルギー光情報デバイスの実現にもつながると期待されます。

図:単層遷移金属ダイカルコゲナイド上の励起子(正電荷(+)と負電荷(-)が互いに引き付け合いながら運動する状態)の模式図。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-018-04988-x

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/232612

Yuhei Miyauchi, Satoru Konabe, Feijiu Wang, Wenjin Zhang, Alexander Hwang, Yusuke Hasegawa, Lizhong Zhou, Shinichiro Mouri, Minglin Toh, Goki Eda, Kazunari Matsuda (2018). Evidence for line width and carrier screening effects on excitonic valley relaxation in 2D semiconductors. Nature Communications, 9, 2598.