画期的抗ウイルス薬FIT-039による子宮頸がんの阻止 -治験を医学部附属病院で年度内に開始する予定-

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※ 図を一部修正しました。(2018年5月21日)

萩原正敏 医学研究科教授、網代将彦 同特定助教らの研究グループは、同グループが開発した画期的抗ウイルス薬「FIT-039」が抗HPV作用を示し、子宮頸部異形成(CIN)の治療薬となりうることを明らかにしました。現在、FIT-039は医学部附属病院皮膚科でウイルス性疣贅(いぼ)に対して医師主導による臨床試験が進められています。さらにCINに対する治療効果を確認する治験が、同産科婦人科で年度内に開始される予定です。

本研究成果は、日本時間2018年4月30日に米国がん学会誌「Clinical Cancer Research」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

日本における子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の普及率は0.5%以下であり、今後も国内の子宮頸がん患者数は激増すると考えられます。子宮頸がんの前がん病変であるCINは初期の段階では経過観察がとられ、進行した場合も部分切除しか治療法がなく、将来の早産や流産のリスクが残ります。そのため薬剤による切除を伴わない治療が望まれていました。本研究では抗ウイルス薬FIT-039がHPVを抑制し、手術に代わる画期的な治療法となることが期待されます。FIT-039は本学附属病院でウイルス性疣贅に対する臨床試験が進められており、さらにCINに対する臨床試験が今年度開始される予定です。これら臨床試験を通じて、画期的な新薬を一刻も早く患者様のもとへ届けたいと思います。

概要

子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)感染により生じるウイルス性のがんです。子宮頸上皮においてHPVが持続感染した場合、数年の期間をかけて前がん病変であるCINを経たのち、一部の症例では子宮頸がんへと進展します。HPVに対する抗ウイルス薬等によるCINの体を傷つけない新しい治療法が望まれていましたが、本研究では、本研究グループがこれまでに抗ウイルス活性を見出してきたサイクリン依存性キナーゼ9(CDK9)阻害剤FIT-039が抗HPV活性を示し、新たな治療薬となりうることを示しました。

HPVの発がん・ウイルス複製機能を担う遺伝子はCDK9により制御を受けていることから、本研究グループは、FIT-039による抗HPV活性を調べました。がんと関連するHPV型(おもに16・18型)は口腔・生殖器等の粘膜上皮組織に感染するため、粘膜上皮角化細胞にHPVを導入してFIT-039効果を検討しました。その結果、細胞増殖やCINの特徴である異形成が抑えられるなど、治療効果をしめすことが分かりました。また、マウスにおける子宮頸がん細胞のゼノグラフト腫瘍でもHPV感染腫瘍の増殖抑制が認められました。一方、FIT-039投与による有害事象は認められないため、CINを治療してがんへの進展を予防する新薬として有望であることが分かりました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1158/1078-0432.CCR-17-3119

Masahiko Ajiro, Hiroyuki Sakai, Hiroshi Onogi, Makoto Yamamoto, Eriko Sumi, Teruo Sawada, Takashi Nomura, Kenji Kabashima, Takamitsu Hosoya, Masatoshi Hagiwara (2018). CDK9 Inhibitor FIT-039 Suppresses Viral Oncogenes E6 and E7 and Has a Therapeutic Effect on HPV-Induced Neoplasia. Clinical Cancer Research, 24(18), 4518-4528.

  • 朝日新聞(5月22日 30面)、毎日新聞(5月22日 26面)および読売新聞(5月21日夕刊 10面)に掲載されました。