医薬品・医療技術の治療効果を正確に予測する統計手法を開発しました

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古川壽亮 医学研究科教授、長島健悟 情報・システム研究機構統計数理研究所特任准教授、野間久史 同准教授らの共同研究グループは、複数の臨床試験によるエビデンスを統合し、治療効果の大きさを評価するメタアナリシスにおいて、治療効果の集団内での異質性を適切に評価し、正確に予測する統計手法を開発しました。

本研究成果は、 2018 年5月 10 日に「 Statistical Methods in Medical Research 」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

医学は日々進歩し、今や、さまざまな疾患に対して複数の治療法が存在しています。一方、医療にさける経済的、人的資源には、限界があります。いかにして治療効果を最大化しつつ適切に資源を配分するか、医療テクノロジー評価の重要性が高まっています。医療テクノロジー評価において、最高のエビデンスを提供する最新の解析方法が、メタアナリシスです。メタアナリシスは、最新の解析手法であるが故に、さらなる基礎的数理的検討を必要としています。本論文は、メタアナリシスの実施およびその解釈において、従来の手法を大きく発展させ、治療効果を正確に評価する方法を提案しました。このような生物統計学の理論的論文が日本から出版されることはまだまだ少なく、この最新医学分野への日本からの貢献がさらに増えることを祈念してやみません。

概要

医療分野におけるメタアナリシスとは、過去に行われた臨床試験の結果を統合し、関心のある薬剤・治療法の治療効果や副作用の大きさを評価するための研究手法です。メタアナリシスでは、試験間の平均治療効果と、異質性(治療効果の違い)の大きさを評価することが、重要であり一般的です。そして、それらとともに、将来試験を実施した際に観察される治療効果の値など、将来観察される推測対象の値を含む可能性が高い区間である「予測区間」を示すことが推奨されています。

しかし、従来の予測区間は、統合する試験の数が少ない場合に、区間の幅を過小評価してしまうことが知られていました。また、その区間の幅を過小評価すれば、治療効果の過小評価と過大評価の両方が起こりうるため、正確な予測区間の評価方法の開発が必要とされていました。

そこで、本研究は、これまでの過小評価の原因の大部分が、各試験間の異質性の影響を過小評価している点であることを明らかにし、予測区間を正確に計算する方法を開発しました。シミュレーションによる性能評価により、統合する試験の数が少なく、標準的な方法で大幅な過小評価が起こる場合においても、新手法ではほとんど過小評価が起こらないことを示しました。今回提案した新手法を用いることで、医療政策や診療ガイドラインの策定、実臨床の現場に、より正確な科学的エビデンスを提供できると期待されます。

図:変量効果モデルを用いたメタアナリシスと予測区間

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1177/0962280218773520

Kengo Nagashima, Hisashi Noma, Toshi A Furukawa (2019). Prediction intervals for random-effects meta-analysis: A confidence distribution approach. Statistical Methods in Medical Research, 28(6), 1689-1702.