骨髄微少環境を制御する新手法で白血病の延命効果を確認 ―白血病治療に新しいコンセプトを提示―

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上久保靖彦 医学研究科准教授、森田剣 同研究員、徳重智恵子 同修士課程学生、足立壮一 同教授、杉山弘 理学研究科教授らの研究グループは、骨髄微少環境(ニッチ)のうち血管内皮ニッチにおいて重要な働きをするE-SelectinをRUNX阻害剤で制御することによって、白血病細胞が骨髄に潜むことを抑制し、マウス白血病移植モデルにおいて大幅に生存期間を延長させることに成功しました。

これは、白血病治療戦略に、直接的な抗がん剤治療に加えて、骨髄微少環境(ニッチ)制御という新しい治療コンセプトを提示する画期的成果です。

本研究成果は、2018年3月2日に国際学術誌「Blood Advances」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から上久保准教授、杉山教授

RUNX阻害剤は、白血病細胞への直接的な抗腫瘍効果だけではなく、骨髄血管内皮ニッチを制御することが可能であることが示唆されます。維持療法、白血病の再発を抑えることが可能となる新たな白血病治療戦略の一つとして開発を進めます。

概要

本研究グループは、これまでにRUNX1を白血病細胞で抑制することにより細胞増殖が強く抑制されることを実証してきました。しかし、骨髄微少環境(ニッチ)におけるRUNXファミリー因子の働きは、ほとんど解明されていません。

骨髄微少環境(ニッチ)は、大きく分けて骨芽細胞ニッチと血管内皮ニッチの2つに分類されます。白血球と血管内皮細胞との接着に関与する分子セレクチンは、(E、L、P)-Selecinの3つが報告されていますが、中でもE-Selectinは血管内皮ニッチの重要な因子であり、急性骨髄性白血病細胞は、E-Selectinにより血管内皮ニッチに接着することで骨髄内に潜む事が知られています。

また、寛解後も体内に残存する微小なレベルの白血病細胞(白血病微少残存病変、MRD:Minimal Residual Disease)は、多くの場合、白血病細胞が抗がん剤の殺効果を逃れて骨髄に潜むこと、それにより免疫監視機構から逃れることが原因と考えられてきました。

そこで本研究グループは、RUNXファミリーの血管内皮ニッチにおける働きを解明し、血管内皮ニッチを制御することによって、白血病細胞が骨髄に潜むことを防ぐ手法を開発するプロジェクトを立ち上げ、研究の結果、白血病細胞が潜む骨髄微少環境血管内皮のE-SelectinをRUNX阻害剤で抑制することによって、白血病細胞の骨髄へのプーリングが抑制されるために、循環血液中に遊出された白血病細胞が抗がん剤治療に暴露されやすくなり、生存期間を大幅に延長できることが判明しました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2017009324

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230635


Ken Morita, Chieko Tokushige, Shintaro Maeda, Hiroki Kiyose, Mina Noura, Atsushi Iwai, Maya Yamada, Gengo Kashiwazaki, Junichi Taniguchi, Toshikazu Bando, Masahiro Hirata, Tatsuki R. Kataoka, Tatsutoshi Nakahata, Souichi Adachi, Hiroshi Sugiyama and Yasuhiko Kamikubo (2018). RUNX transcription factors potentially control E-selectin expression in the bone marrow vascular niche in mice. Blood Advances, 2(5), 509-515.