高強度・高延性を有するハイ・エントロピー合金の作製 -ヘテロ・ナノ組織制御による優れた力学特性の実現-

ターゲット
公開日

Tilak Bhattacharjee 学際融合教育研究推進センター構造材料元素戦略研究拠点ユニット特定研究員、辻伸泰 工学研究科教授の研究グループは、インド工科大学ハイデラバード校、スウェーデン・チャルマース工科大学、シエンタ・オミクロン株式会社と共同で、高い強度と大きな引張延性を有するハイ・エントロピー合金を作製することに成功しました。ハイ・エントロピー合金とは、5種類以上の異なる元素をほぼ等原子数ずつ混ぜ合わせて作製される新しい概念の合金です。

本研究成果は、2018年2月19日午後7時に、英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、辻教授、Bhattacharjee特定研究員

均一なナノ組織を有する試験片よりも、不均一なナノ組織(ヘテロ・ナノ組織)を有する試験片の方が優れた力学特性を示した事実に驚きました。ハイ・エントロピー合金は新しいコンセプトの合金材料であり、本成果は、金属材料の秘められたポテンシャルを示す一例だと思います。

概要

ハイ・エントロピー合金は、従来にない新しい合金として材料科学における基礎的興味を喚起するとともに、異なるサイズの原子で構成される結晶格子の大きな歪みに由来した高い強度や、原子の拡散が抑制されることによる高温での安定性などから、未来の高強度材料、高温材料としての応用も大いに期待され、世界中で活発な研究が行われています。

本研究グループは、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)から成り、鋳造・凝固状態では2種類の異なる板状金属間化合物(平均サイズ200~250nm)が交互に並んだラメラ状組織を有するハイ・エントロピー合金に対し、液体窒素温度での極低温圧延と焼鈍を施すことによって、引張強さ1562MPa、引張延性14%という優れた室温力学特性を得ることができました。これは従来報告されている種々のハイ・エントロピー合金の中でも最高の強度と、最も優れた強度・延性バランスに相当します。詳細な組織観察の結果、優れた力学特性を示した試料は、再結晶により二つの相が等軸化した領域とラメラ組織を維持した領域により構成される複雑な不均一ナノ組織(ヘテロ・ナノ組織)を持つことが明らかとなりました。

図:本研究で用いたハイ・エントロピー合金の鋳造・凝固材(a-c)および極低温圧延材(d-f)の電子顕微鏡写真と、(g)応力-ひずみ曲線。極低温圧延・焼鈍材(90% Cryo-rolled+800℃×1h)は高強度と高延性を両立している。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-018-21385-y

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/229145

T. Bhattacharjee, I. S. Wani, S. Sheikh, I. T. Clark, T. Okawa, S. Guo, P. P. Bhattacharjee & N. Tsuji (2018). Simultaneous Strength-Ductility Enhancement of a Nano-Lamellar AlCoCrFeNi2.1 Eutectic High Entropy Alloy by Cryo-Rolling and Annealing. Scientific Reports, 8, 3276.

  • 日刊工業新聞(2月20日 25面)に掲載されました。