ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の新しい感染維持機構を解明 -HTLV-1による白血病の発症機序解明と発症予防への応用に期待-

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安永純一朗 ウイルス・再生医科学研究所講師、松岡雅雄 熊本大学教授、岩見真吾 九州大学准教授らの研究グループは、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)が極めて巧妙な手口により感染を維持していることを明らかにしました。本研究成果は白血病発症機序の解明に繋がるだけでなく、ウイルスタンパク質を標的とした効果的な免疫療法の開発に寄与できるものです。

本研究成果は、2018年1月23日午前5時に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究により、HTLV-1感染細胞が持続感染を確立し、発がんに導く新しい機序が明らかとなりました。ウイルスタンパク質Taxは非常に良いワクチンの標的と考えられており、Taxの発現調節機構に関してさらに解析が進むことで、Taxの発現誘導とTaxワクチンを併用する新しい複合免疫療法の開発に繋がると期待されます。

概要

HTLV-1は主にCD4陽性Tリンパ球に感染し、感染細胞ががん化すると治療抵抗性の悪性腫瘍である成人T細胞白血病(ATL)を引き起こします。HTLV-1は発がん作用を有するTaxというウイルスタンパク質の遺伝子を持っていますが、Taxは免疫の標的になりやすいため白血病細胞では殆ど検出されず、その役割や作用機構は明らかになっていませんでした。

本研究グループは、Taxが作動すると蛍光タンパク質が産生されるATL細胞株を作成し、観察・解析を行いました。その結果、白血病細胞のごく一部の細胞が短時間Taxを作動させることで、細胞集団全体の生存を維持していることが判明しました。さらに感染細胞にストレスが加わるとTaxを産生する細胞が増えることも明らかとなりました。

免疫から逃れるためTaxの産生を最小限に抑える一方で、状況に応じてTaxを活性化する機構はHTLV-1の持続感染に重要であり、感染細胞のがん化にも関与していると考えられます。これはウイルス遺伝子がオン・オフを調節しながら機能していることを明らかにした初めての研究です。

図:HTLV-1は感染細胞のがん化により成人T細胞白血病を引き起こす。ウイルスが持つTaxというタンパク質は発がん作用があるが、免疫の標的となる。免疫から逃れるため、白血病細胞のごく少数の細胞がオン/オフを切り替えながらTaxを機能させ、白血病細胞全体の生存を維持することが判明した。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1073/pnas.1715724115

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228952

Mohamed Mahgoub, Jun-ichirou Yasunaga, Shingo Iwami, Shinji Nakaoka, Yoshiki Koizumi, Kazuya Shimura, and Masao Matsuoka (2018). Sporadic on/off switching of HTLV-1 Tax expression is crucial to maintain the whole population of virus-induced leukemic cells. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 115(6), E1269-E1278.