二刀流のがん増殖戦略

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古谷寛治 放射線生物研究センター講師の研究グループ及び、井倉毅 同准教授、井倉正枝 同研究員らの研究グループは、細胞が本来持っている防御ネットワークを突き破り異常増殖をするという、がん細胞特有の性質を説明する分子機構を発見しました。

本研究成果は、2017年12月19日午後5時にオンライン科学雑誌「eLife」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、古谷講師、井倉准教授、井倉研究員

本研究成果は、今後のがん治療やがんの新たな分子標的治療の発掘に寄与できると考えられます。現在は100種類以上あると言われるがんの個別治療への発展を目標とした研究を進めているところです。

概要

がん細胞は不死化した細胞であり、強い増殖能力をもつことはよく知られています。一方で、正常細胞には異常な増殖を防ぐ様々な防御ネットワークが様々な形で備わっていることがわかっています。その一つがチェックポイントと呼ばれる機構です。一般に細胞が放射線等に曝され、遺伝情報であるDNAに傷が生じると、DNA上の損傷を感知し、細胞増殖の速度が遅くなります。

しかし、本研究グループが今回発見した新規のリン酸化シグナル経路は、このチェックポイント機構がDNA上の損傷を感知できなくするものでした。がん細胞ではこのリン酸化シグナル経路を働かせることで、DNAに傷を負いながらも増殖速度を維持し続けることができるということがわかりました。

今回の結果は、がん細胞が細胞増殖機構を推進するだけでなく、増殖機構の敵をなぎ倒すといった、「二刀流」を駆使することでがん増殖をし続けることを示しています。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.7554/eLife.29953

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228267

Takeshi Wakida, Masae Ikura, Kenji Kuriya, Shinji Ito, Yoshiharu Shiroiwa, Toshiyuki Habu, Takuo Kawamoto, Katsuzumi Okumura, Tsuyoshi Ikura and Kanji Furuya (2017). The CDK-PLK1 axis targets the DNA damage checkpoint sensor protein RAD9 to promote cell proliferation and tolerance to genotoxic stress. eLife, 6, e29953.

  • 朝日新聞(12月20日 32面)、京都新聞(12月20日 22面)に掲載および関西テレビ(12月19日)で放送されました。