新規ナノファイバー・iPS細胞由来心筋組織片を用いた再生医療技術の開発 -安全・配向・3次元心筋組織の構築に成功-

ターゲット
公開日

劉莉 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)連携准教授(兼・工学研究科特定准教授)、李俊君 工学研究科特定研究員、南一成 大阪大学特任准教授、澤芳樹 同教授、陳勇 フランス・パリ高等師範学校教授らの研究グループは、新たに開発されたナノファイバー(直径1ナノ~数マイクロメートル程度の繊維状の構造体)材料を用いて、安全性と配向性(配列の方向がそろう性質)、3次元構造を持ったヒトiPS細胞由来の心筋細胞の組織構築に世界で初めて成功しました。このナノファイバー心筋組織片を使った新しい心筋再生治療法が期待されています。

本研究成果は、2017年10月27日午前1時に米国の科学誌「Stem Cell Reports」で公開されました。

研究者からのコメント

左から、劉連携准教授、李特定研究員、南特任准教授

近い将来、大型動物モデルへ適用するための技術改良を行いながら、有効性と安全性を確認し、このナノファイバー心筋組織片を重症心不全の治療や創薬に広く応用することを目指します。また、iPS細胞以外の幹細胞や心筋以外の分化細胞についてもこのナノファイバー技術が応用できると考えており、多種の生体組織を構築していくことで、幅広い組織工学への適用を目指し開発を進めていきます。

概要

生体内の心筋細胞は筋繊維が配列した3次元構造を有していますが、これまでの平面的な細胞培養法で得られた心筋細胞は配列構造を持たないものであったため、筋繊維構造や収縮力、電気生理学的性質について、実際の心臓と性質が異なることが課題でした。

本研究では、生体内の心臓組織の微小環境を模倣し人工的に心筋構造を再生するために、安全性の高い生体分解性素材である乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)を用いて、心筋細胞培養に最適化した配向性ナノファイバーを開発しました。このナノファイバーとヒトiPS細胞から作成した高純度のヒト心筋細胞を組み合わせ、3次元組織培養を行うことで、実際の心臓組織に近い3次元多層構造と筋繊維の配列構造を伴った、ナノファイバー融合型の心筋組織片を構築することに成功しました。従来の配列構造を持たない2次元単層の心筋細胞と比較して、このナノファイバー心筋組織片は各心筋関連遺伝子の発現レベル(β-MHCなど)の点で成熟度が高く、薬剤応答に関する電気生理学的な機能性に優れていることを示すデータが得られました。創薬分野や薬剤評価の新規手段としての応用が期待できます。

図:生体内の心臓組織の微小環境を模倣し人工的に心筋構造を再生するため、安全性の高い生体分解性素材を用いて、心筋細胞培養に最適化した配向性ナノファイバーを作成し、ヒトiPS細胞から作成した高純度のヒト心筋細胞と組み合わせ、実際の心臓組織に近い3次元多層構造と筋繊維の配列構造を持つ、ナノファイバー融合型の心筋組織片を構築した。この心筋組織片をラット心筋梗塞モデルに移植した結果、厚みのある細胞組織の生着が認められ、同時に梗塞で低下した心機能の有意な改善が見られた。また、この心筋組織片は薬剤応答に関する電気生理学的な機能性に優れているため、今後創薬分野や薬剤評価の新規手段としての応用が期待される。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2017.09.007

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227734

Junjun Li, Itsunari Minami, Motoko Shiozaki, Leqian Yu, Shin Yajima, Shigeru Miyagawa, Yuji Shiba, Nobuhiro Morone7, Satsuki Fukushima, Momoko Yoshioka, Sisi Li, Jing Qiao, Xin Li, Lin Wang, Hidetoshi Kotera, Norio Nakatsuji, Yoshiki Sawa, Yong Chen, Li Liu (2017). Human Pluripotent Stem Cell-Derived Cardiac Tissue-like Constructs for Repairing the Infarcted Myocardium. Stem Cell Reports, 9(5), 1546-1559.

  • 朝日新聞(10月27日 7面)、京都新聞(10月27日 27面)、産経新聞(10月27日 30面)、中日新聞(10月27日 28面)、日刊工業新聞(10月27日 23面)、日本経済新聞(10月27日 42面)、毎日新聞(10月27日 29面)、読売新聞(10月27日 37面)、日経産業新聞(10月27日 8面)に掲載およびNHK(10月27日)、朝日放送(10月27日)、関西テレビ(10月27日)、読売テレビ(10月27日)、KBS京都(10月27日)で放送されました。