細胞内でタンパク質を検出して運命制御できる「RNAナノマシン」の構築

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柴田知範 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)研究員(現・大阪大学特任助教)、齊藤博英 同教授らの研究グループは、タンパク質と相互作用できるRNAからなる機能性ナノ構造体「RNAナノマシン」を構築し、生きた細胞内でRNAナノマシンが機能して細胞の運命決定を操作できることを確認しました。

本研究成果は、2017年9月14日午後6時に英国の科学誌「Nature Communications」でオンライン公開されました。

研究者からのコメント

齊藤教授

本研究では、生細胞内でその中のタンパク質を感知し、目的の細胞にのみ細胞死を起こさせるRNAナノマシンの開発に初めて成功しました。今後、これまでに開発したマイクロRNAスイッチと組み合わせることで、より有効に細胞の運命を制御する手法の開発を目指します。細胞内で速やかに分解されるRNAを用いたRNAナノマシンは、ゲノム損傷のリスクが低く安全性に優れているため、将来核酸医薬などへの応用が期待できると考えています。

本研究成果のポイント

  • タンパク質を検知して作動する、ナノメートルサイズのRNAからなる分子マシン(RNAナノマシン)を構築した。
  • RNAナノマシンは、細胞内で特定のタンパク質を精密に検知し、RNA上に集積できた。
  • RNAナノマシンを使い、細胞内のタンパク質(Lin28)に応答して、細胞死のシグナルを精密に操作することができた。
  • iPS細胞とヒーラ細胞内(ヒト由来の最初の細胞株)の環境を見分け、ヒーラ細胞特異的に細胞死を誘導できた。

概要

DNAやRNAを扱った核酸ナノテクノロジーは、これからの生命科学や医療において大いに期待される技術ですが、これまで細胞死などの細胞の運命を操作できるような核酸ナノマシンは開発されていませんでした。

そこで本研究グループはまず、RNAとタンパク質の相互作用によって生じるRNAの構造変化やタンパク質の集積を制御できるRNAナノマシンを構築しました。次に、構築したRNAナノマシンを用いて細胞内タンパク質を検知、集積して細胞死のシグナルを精密に操作することに成功しました。

本研究から、RNAやRNA-タンパク質複合体を材料とし、細胞内で機能する様々な「分子ロボット」の構築が期待できます。

図:RNAナノマシンによって細胞死を操作する方法

目的のタンパク質と相互作用し、トライアングル状のRNA構造体が構築されてCasp-8(細胞死の一つアポトーシスを促進するタンパク質)が機能する場合は細胞は死に、目的のタンパク質との相互作用がなくRNA構造体が構築されない場合は、Casp-8が機能しないので細胞は死なない。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-00459-x

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227162

Tomonori Shibata, Yoshihiko Fujita, Hirohisa Ohno, Yuki Suzuki, Karin Hayashi, Kaoru R. Komatsu, Shunsuke Kawasaki, Kumi Hidaka, Shin Yonehara, Hiroshi Sugiyama, Masayuki Endo & Hirohide Saito (2017). Protein-driven RNA nanostructured devices that function in vitro and control mammalian cell fate. Nature Communications, 8(1), 540.