iPS細胞由来神経細胞の他家移植におけるMHC適合の有用性

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森実飛鳥 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)特定拠点助教、高橋淳 同教授らの研究グループは、理化学研究所、東海大学、滋賀医科大学と共同で、iPS細胞由来神経細胞を他家移植(ある個体由来の細胞や組織を、同種の別個体の体内に移植すること)する際のMHC(ヒトではHLAと呼ばれる、免疫反応に関わる遺伝子を多く含む大きな遺伝子領域)適合の有用性を示しました。

本研究成果は、2017年8月31日午前2時に英国の科学誌「Nature Communications」でオンライン公開されました。

研究者からのコメント

CiRAでは再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトを進めており、CiRA内外でいくつかの疾患においてiPS細胞ストックを用いた再生医療の臨床研究あるいは治験が計画されています。本研究の成果は、今後、iPS細胞由来体細胞の他家移植におけるHLA適合や免疫抑制剤使用の有無の検討に貢献できると考えています。

本研究成果のポイント

  • MHC不適合のサルiPS細胞由来ドパミン神経細胞を他のサルの脳に移植すると、免疫反応が引き起こされた。
  • MHCを適合させることで、移植したドパミン神経細胞への免疫反応が抑制され、生着率が向上した。
  • MHC不適合の場合でも、免疫抑制剤の利用により免疫反応を抑制できた。

概要

現在、パーキンソン病などの脳神経疾患において、iPS細胞から作製した神経細胞を移植することで症状の改善を図る、再生医療に向けた研究が進められています。その再生医療には、他家移植も視野に入れられています。一般的に免疫反応が起きやすい骨髄移植や腎臓移植では、HLAを適合させることが生着率を上げると知られています。神経細胞は免疫反応を起こしにくいとされており、これまで胎児神経細胞などの他家移植が行われてきましたが、HLA適合の有用性については議論が分かれていました。

本研究では、MHCの型を、父親と母親それぞれから同一の型を受け継ぎホモ接合体でもつ健常なカニクイザルからiPS細胞を作製し、ドパミン神経細胞へと変化(分化)させ、それをMHCが適合しないサル、あるいは同じMHCの型を、父親と母親それぞれから異なる対立遺伝子を受け継ぐヘテロ接合体でもつサルの脳に移植しました。その結果、MHC不適合の場合、移植片に対して免疫反応が引き起こされる一方、MHCを適合させた場合は免疫反応が有意に抑えられることが分かりました。また、MHCが不適合の場合でも免疫抑制剤の投与により、MHCを適合させた場合と同程度まで抑制できることが分かりました。さらに、MHCを適合させると、不適合の場合と比較し、移植した神経細胞の生着率が有意に高くなることも確認できました。

本研究では、免疫反応を起こしにくいとされていた神経細胞であっても、他家移植の際にはMHCを適合させることが有用であることを示しました。iPS細胞由来神経細胞を用いた再生医療の臨床応用に貢献できると期待されます。

図:本研究での実験デザイン

MHCホモ接合体サルのiPS細胞由来ドパミン神経細胞を、同じハプロタイプをもたないサル(MHC不適合;対照群)とヘテロ接合体サル(MHC適合)に移植した。また、それぞれに免疫抑制剤(タクロリムス)投与群をつくった。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-00926-5

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227001

Asuka Morizane, Tetsuhiro Kikuchi, Takuya Hayashi, Hiroshi Mizuma, Sayuki Takara, Hisashi Doi, Aya Mawatari, Matthew F. Glasser, Takashi Shiina, Hirohito Ishigaki, Yasushi Itoh, Keisuke Okita, Emi Yamasaki, Daisuke Doi, Hirotaka Onoe, Kazumasa Ogasawara, Shinya Yamanaka & Jun Takahashi(2017). MHC matching improves engraftment of iPSC-derived neurons in non-human primates. Nature Communications, 8, 385.

  • 産経新聞(9月5日 23面)および日刊工業新聞(8月31日 21面)に掲載されました。