大隅Atg分子を必要としないミクロオートファジーの新しいメカニズム

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奥公秀 農学研究科助教、阪井康能 同教授らの研究グループは、酵母Saccharomyces cerevisiaeを対象にした解析から、これまでに発見されたオートファジー(細胞自身が、細胞内のタンパク質を分解する仕組み)機能分子である大隅Atg分子を必要としない新たなオートファジーの仕組み(ミクロオートファジー)が存在すること、このオートファジーはESCRT(エスコート)と呼ばれる別の分子複合体を液胞(リソソームに相当するオルガネラ(細胞内器官))の膜表面に移動させてその膜を変形させ、中性脂質の蓄積の場であるオルガネラ、脂肪滴の分解を引き起こすことを見出しました。

本研究成果は、2017年8月24日午後10時に米国の科学誌「Journal of Cell Biology」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、阪井教授、奥助教

長い間、マクロオートファジーの陰になって注目されてこなかったミクロオートファジーですが、ミクロオートファジーのみに関わる分子が明らかになったことから、今後、ミクロオートファジーにおける生体膜ダイナミクスを制御する分子メカニズムの解明が進展すると考えられます。さらに、酵母における生理現象とそのメカニズムの多くが高等生物でも保存されていることや、高等細胞においても脂肪滴の分解がミクロオートファジーによって行われている可能性も高いと考えられます。今後は、脂質代謝や肥満など、様々な疾病との関連や、植物の色素合成における役割など、ミクロオートファジーの多様な生理機能と、疾病・物質生産との関連が明らかになっていくものと考えられます。

概要

オートファジーは、液胞/リソソームで、細胞内のオルガネラや細胞質タンパク質を分解するシステムです。大隅良典 東京工業大学栄誉教授による、酵母とその遺伝学を駆使した遺伝子の単離と、細胞内の形態観察・生化学的解析によるオートファジー分子(Atg分子)の機能解明は、2016年のノーベル生理学・医学賞の対象となりました。大隅栄誉教授により見出されたオートファジー様式は「マクロオートファジー」と呼ばれるもので、細胞内にオートファゴソームと呼ばれる膜構造体が出現し、分解対象となるオルガネラやタンパク質を包み込みます。一方、TVゲームのパックマンのように、液胞が変形して直接標的を包み込むオートファジーの様式は、「ミクロオートファジー」と呼ばれ、マクロオートファジーとともに古くから知られています。近年、動物細胞では胚発生の過程に、植物ではアントシアニンという色素の合成にミクロオートファジーが働くことはわかってきましたが、その分子機構については、全てのあるいは一部のAtg分子が必要かどうかも含めて不明な点が多く、研究者によって意見が異なっているのが現状でした。

本研究グループは、パン酵母Saccharomyces cerevisiaeを用いて、オートファゴソームの形成に機能する、いわゆる大隅Atg分子を全く必要としないミクロオートファジーが存在すること、このミクロオートファジーにおける液胞膜の変形過程は、ESCRTと呼ばれる、Atgとは別の分子複合体が液胞膜上に移動することで進行し、マクロオートファジーとは全く異なるメカニズムで起こることを明らかにしました。

一方、脂肪滴(細胞内の中性脂質の貯蔵の場であるオルガネラ)の分解は、これまでマクロオートファジーで起こっているのではないかと言われていましたが、未だに決定的な証拠はありません。今回、少なくとも酵母ではAtg分子を必要としない脂肪滴分解があること、また液胞が直接脂肪滴を取り込む様子が電子顕微鏡で観察されたことなどの結果から、ミクロオートファジーにより脂肪滴の分解が起こっていることが証明されました。

図:ミクロオートファジーにより液胞内に取り込まれる脂肪滴

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1083/jcb.201611029

【KURENAIアクセスURL】 https://hdl.handle.net/2433/230534

Masahide Oku, Yuichiro Maeda, Yoko Kagohashi, Takeshi Kondo, Mai Yamada, Toyoshi Fujimoto, Yasuyoshi Sakai (2017). Evidence for ESCRT- and clathrin-dependent microautophagy. The Journal of Cell Biology, 216(10), 3263-3274.