イリジウム触媒を用いた安全・効率的な水素貯蔵システムを開発

ターゲット
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藤田健一 人間・環境学研究科教授らの研究グループは、イリジウム触媒を用いた効率的な水素貯蔵システムを開発しました。ジメチルピラジンという窒素を含んだ化合物を水素と反応させ、ジメチルピペラジンという物質として水素を蓄えます。また、同一のイリジウム触媒を用いて脱水素化反応を起こし、水素を取り出すこともできます。加えて、この2つの反応を比較的穏やかな条件で達成することに成功しました。

本研究成果は、2017年7月27日にドイツの学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。

研究者からのコメント

藤田教授

有機ハイドライドによる安全で効率的な水素貯蔵システムを有効活用すれば、可燃性燃料を安全に扱ってきた実績のある、現行の社会インフラをそのまま利用した水素貯蔵や輸送が可能になります。すなわち、水素社会への移行に際し、新しいインフラをゼロから構築する必要がなくなり、経済性、実現可能性の面で大きな利点を提供できると考えています。

概要

近年、水素は低炭素社会実現の観点から理想的なエネルギー源として注目されています。水素は電気エネルギーをはじめとする他のエネルギーに容易に変換でき、その際に二酸化炭素を生み出さず、重量に対して多くのエネルギーを取り出すことができるという特長を持っています。しかし、水素は爆発性があるため安全かつ効率的に貯蔵するための手法開発が必要とされています。その中でも、水素を有機分子内に結合させて蓄える「有機ハイドライド」を用いた貯蔵方法は超低温や高圧を作り出す必要がないため注目を集めています。

本研究グループは、入手が容易で取り扱いの面で大きな問題のない、有機ハイドライド分子の候補になり得る化合物を探索し、ジメチルピペラジンという化合物に行き当たりました。この化合物はこれまでに本研究グループが開発してきたイリジウム脱水素化触媒を用いることで、3分子の水素を放出しながらジメチルピラジンへと変換されることがわかりました。また、逆に水素を貯蔵する水素化反応も同じイリジウム触媒を用いて、従来法よりも低圧の15気圧という条件下で進むことがわかりました。

この反応を利用することで、爆発性があるため取り扱いに注意が必要な水素を安全で取り扱いの容易な化合物として貯蔵することができます。水素を取り出す必要が生じた際は、触媒的な脱水素化反応によって水素を得ることができます。加えて今回開発した方式は従来のものに比べ、反応の際に用いる溶媒の使用量が格段に少なく、溶媒がなくてもある程度効率良く反応が進むという特長もあります。溶媒の使用量を低減できることは、実用的な貯蔵システムの基盤とするために優位な点だと考えられます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/anie.201705452

Ken-ichi Fujita, Tomokatsu Wada, Takumi Shiraishi(2017). Reversible Interconversion between 2,5-Dimethylpyrazine and 2,5-Dimethylpiperazine by Iridium-Catalyzed Hydrogenation/Dehydrogenation for Efficient Hydrogen Storage. Angewandte Chemie International Edition, 56(36), 10886–10889.