ウシ科家畜における体重と胸囲の関係の種間比較 -自然淘汰や人為選抜による形態の進化-

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廣岡博之 農学研究科教授、安在弘樹 同教務補佐員(現・宮崎大学助教)らの研究グループは、新たに考案した方式を用いてウシ科の家畜を対象に体重と胸囲のアロメトリー関係(体重と身長など2つの形質の間に成立する関係)の種間比較を行い、自然淘汰や人為選抜によるアロメトリーの変化を検証しました。

本研究成果は、2017年7月6日に英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究で新たに考案したアロメトリー式の切片は、今後も異なる種や品種のアロメトリーの比較を行う研究で活発に用いられることを期待しています。また、近年のアロメトリーの研究では、世代更新の早い昆虫や魚類を用いて人為的な選抜を行う実験を試みるものが多かったのですが、家畜は長期にわたり強い人為選抜を受けてきた歴史を持っているので、さまざまな種や品種のアロメトリー関係を調べることは、人為選抜による生物の形態的な変化の形跡を見る上で非常に貴重なデータになると考えられます。今後もこのようなデータを収集し、生物の形態的多様性がどのように発生するかを理解するために役立てていきたいと考えています。

概要

生物の体全体や一部のサイズなど、2つの形質の間にはアロメトリー関係が存在します。種や品種によってアロメトリー関係は異なるため、この変化の仕組みを解明することは生物の形の多様性がどのように生まれたのか理解する上で非常に重要と言えます。特にアロメトリー関係が変化しづらいケースでは、それが安定した状態に向かう淘汰によるものか発育や生理的な制約によるものなのか、活発な議論が続いています。そこで本研究では、種が形成される中での自然淘汰に加え、家畜化以降の育種改良による強い人為選抜を受けてきたウシ科家畜を対象とし、体重と胸囲の関係をアロメトリーに当てはめ、種間、種内品種間で比較を行うことで、自然淘汰や人為選抜によるアロメトリー関係の変化の仕組みに対する推定を行うことを目的としました。

本研究グループは、日本やネパールの生産現場で収集したウシ科家畜7種類の体重と胸囲の測定値をアロメトリー式にあてはめ、式のパラメータ(アロメトリー式は、両辺の対数を取ることで、logY=log a b logXという線形の関係が得られる。 b は傾き、log a は切片というパラメータ)を種間、種内品種間で比較しました。

その結果、アロメトリー式の傾きは自然淘汰の中では変化しづらいものの、育種改良のように人の手が入ると比較的短期間で変化する可能性があることが分かりました。一方、傾きとは異なるパラメータでは、ヤクを除いて種が枝分かれした時期が近いほど似通った値を示しました。ヤクだけが異なっていたのは、高標高地域に適応するためのユニークな形態的進化のためだと考えられます。このことから、新たに考案した方式は種分化や進化による形態的な変化の形跡を適切に反映した有望なものだと言えます。

図:種、品種ごとの計測データ。ヤク(赤)だけ胸囲が明らかに大きい。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-017-04976-z

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/226395

Hiroki Anzai, Kazato Oishi, Hajime Kumagai, Eiji Hosoi, Yoshitaka Nakanishi & Hiroyuki Hirooka (2017). Interspecific comparison of allometry between body weight and chest girth in domestic bovids. Scientific Reports, 7, 4817.