有機EL素子の新しい発光機構を提案 -従来、利用できないとされていた電子状態を活用/希少元素は不要-

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佐藤徹 工学研究科准教授、林里香 工学部学生、春田直毅 同博士課程学生(現・東京工業大学研究員)、夫勇進 山形大学准教授らの研究グループは、次世代ディスプレイや照明として期待されている有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子の、従来にない新しい発光機構とこの発光機構を実現するための発光分子の分子設計指針を提案しました。

本研究成果は、2017年7月6日午後6時に英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究で提案した発光機構を実現する新規分子骨格の理論設計・合成と素子特性の測定が進行中です。従来の設計指針よりも分子構造に制約が少なく希少金属が不要なため、多様な分子骨格が発光分子の候補となります。今回の提案を踏まえ、より長寿命で低コストな素子の探索を進めていきます。

本研究の基礎となっている理論は、分子の励起状態を失活し難くし、 励起エネルギーを効率よく利用することを可能にするものです。 今後は、有機EL材料以外の有機太陽電池などの分子設計にも展開していきたいと考えています。

概要

有機EL素子は、フレキシブルで薄い次世代のディスプレイや照明として期待されています。この材料は、複数の有機材料からなる層状構造をとっており、発光層に用いる分子をより長寿命で効率よく発光させるための技術開発が盛んに行われています。有機EL素子は、有機材料に電流を流すことで分子の電子状態を高エネルギー状態(励起状態)にし、これが最低エネルギー状態に変化する際に放出されるエネルギーを光として取り出す仕組みです。

今回本研究グループが提案した発光機構は、これまで発光には利用できないとされて来た電子状態を利用するものです。提案された設計指針により、第二世代のEL機構であるリン光EL材料で必要とされるような希少金属は必要ではなく、過去に検討されてきたものよりも広い範囲の分子が高効率で発光する分子の候補となり得ます。第三世代のEL機構である熱活性型遅延蛍光(TADF)で指摘されている、青色発光が難しい、色純度が悪いといった問題も解消される可能性を持つ発光機構です。

図:ビスアントラセン誘導体において見出された新規EL発光機構

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-017-05007-7

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/226346

Tohru Sato, Rika Hayashi, Naoki Haruta & Yong-Jin Pu (2017). Fluorescence via Reverse Intersystem Crossing from Higher Triplet States in a Bisanthracene Derivative. Scientific Reports, 7, 4820.

  • 日刊工業新聞(7月7日 21面)に掲載されました。