出発前日の早起きで時差ボケを軽減 -シフトワーカーのからだに優しい勤務スケジュールの作成に期待-

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山口賀章 薬学研究科助教、岡村均 同教授、郡宏 お茶の水女子大学准教授らの研究グループは、数学とコンピュータによるシミュレーションによって時差ボケの原因を解明、さらに薬などを使わずに時差ボケを軽減する方法を提案し、ネズミを使った実験でその有用性を確認しました。時差ボケの症状の軽減だけでなく、シフト労働者の体の負担を軽減するようなスケジュール作りにも応用できる可能性があります。

本研究成果は、2017年4月26日午後6時に英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

これまでに提案されてきた時差ボケの軽減方法と比較すると、脳内の時計細胞集団の振る舞いを考慮に入れている点が、本研究の画期的な点です。これを可能にしたのが、数学とコンピュータを用いた予測です。この手法は、シフト労働者の負担を軽減するようなスケジュール作りに応用できる可能性があります。

本研究成果のポイント

  • 時差ボケの原因を数学的に解明
  • 東向きの長距離旅行時には出発前日に早起きすると時差ボケが軽減することをコンピュータ・シミュレーションで予測、ネズミの実験で有効性を確認
  • シフト労働者の体に優しいスケジュール作成への応用に期待

概要

時差ボケの原因は私たちが体の中に持つ体内時計にあります。体内時計は体中の細胞一つひとつが持っていますが、それらを束ねるのが、時計細胞とよばれる脳の中の神経細胞の集まりです。時計細胞は各々が約24時間周期で遺伝子発現を繰り返しており、このリズムのタイミングを集団で合わせることによって全体で強いリズムを作ります。この強いリズムが体中の細胞に影響を与えることによって、体内時計は機能しています。コンサートホールでの演奏会に例えると、昼夜の1日のリズムが指揮者のリズムに、演奏者のリズムが脳の時計細胞のリズムに、そして聴衆のリズムが体中の細胞のリズムに対応します。時差は指揮者が突然そのリズムを変更することに対応し、そのときに、オーケストラや聴衆が、指揮者の新しいリズムについていくのに少し時間がかかることが時差ボケであるといえます。

過去の研究から、時差を与えると脳内の時計細胞のリズムが大きく乱れることが知られていましたが、それは複雑で詳しい観察が難しいものでした。そこで本研究グループは、リズム集団の振る舞いを数式で表し、その数式を解いたりコンピュータ・シミュレーションを行ったりすることによって、時計細胞集団のリズムを予測しました。その結果、現地時間が遅れる(1日が長くなる)ような時差では、時計細胞のリズムは現地の昼夜のリズムよりも先行した状態になりますが、集団のリズムがよくそろったままで、数日で現地のリズムに合わせることができることがわかりました。

ところが、現地時間が早まる(1日が短くなる)ような時差では、時計細胞のリズムが昼夜のリズムより遅れるだけではなく、集団のリズムがバラバラになってしまい、全体としてのリズムがほぼ失われた状態に陥ることがわかりました。そして、この状態に一旦陥ると、時計細胞同士のリズムを再び合わせるのが難しくなり、さらに、乱れた周りの時計細胞の影響で昼夜のリズムにもなかなかタイミングを合わせることができず、結局、時差ボケからの回復が長引くことがわかりました。

これらの結果から本研究グループは、時計細胞のリズムがバラバラになるのを防げれば、時差ボケから早く回復できるという予想をしました。そこで、8時間の時差を2日間にわたって4時間ずつ与えることをまずシミュレーションで試した結果、リズムはバラバラにならず、そして時差からの回復が数日早まることが確認できました。この結果を受け、ネズミを使って同様の実験を行うと、シミュレーションの予測の通り、時差ボケからの回復が本当に数日早まることが確認されました。

図:時差が与えられたときの体内時計(脳内の時計細胞群)の様子

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/srep46702

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/224779

Hiroshi Kori, Yoshiaki Yamaguchi & Hitoshi Okamura (2017). Accelerating recovery from jet lag: prediction from a multi-oscillator model and its experimental confirmation in model animals. Scientific Reports, 7, 46702.