光合成における水分解反応の機構の核心に迫る成果 光化学系 II 複合体が酸素分子を発生する直前の立体構造を解明 -人工光合成触媒開発の糸口に-

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岩田想 医学研究科教授、菅倫寛 岡山大学助教、秋田総理 同助教、沈建仁 同教授、菅原道泰 理化学研究所特別研究員、久保稔 同専任研究員らの研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを用いて、光化学系 II 複合体(PSII)が光合成の水分解反応において酸素分子を発生させる直前の状態の立体構造を捉えることに成功し、酸素分子の生成部位を特定しました。

本研究成果は、2017年2月21日午前1時に英国の科学雑誌「Nature」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究成果は、光合成における水分解反応の機構の核心に迫る成果で、太陽のエネルギーを用いて酸素を発生させる仕組みの解明に大きく寄与するものです。私たちは理化学研究所と協力し、自由電子レーザーを用いてタンパク質の動く姿を捉えることのできる装置を開発しており、今回の成果はその装置を用いて得られたものです。生体の中で起きる各種の重要な反応の仕組みをこの装置を用いて解明していこうと考えています。

概要

太陽から降り注ぐ光のエネルギーを利用して、植物が水と大気中の二酸化炭素から炭水化物を合成し、酸素分子を放出する反応は光合成として知られています。PSIIとよばれるタンパク質は光のエネルギーを利用して、水分子を酸素と水素イオン(プロトン)と電子へと分解して酸素分子を発生させる、いわば「光合成の始まり」を担っています。本研究グループはこれまでに、PSIIの高品質な結晶を得て放射光施設SPring-8の強力なX線を用いて1.90オングストローム分解能という高い精度で立体構造を解析し、水分子を分解する触媒の立体構造の正体はMn 4 CaO 5 クラスターで、「ゆがんだイス」のようなかたちをしていることを明らかにしています。さらに、X線自由電子レーザー施設SACLAにおいて、フェムト秒(1フェムト秒は10 15 分の1秒で、光が約3μm走る時間)の強力なX線パルスを利用して結晶を解析することで、X線の損傷を受けていない、天然状態の触媒の正確な立体構造を1.95オングストローム分解能で明らかにしています。

しかし、これらの立体構造はいずれも水分子を分解する反応の「始まり」の状態であり、水分子が分解される仕組みは「始まり」の状態をもとに推測するしかありませんでした。

そこで本研究グループは、X線自由電子レーザー施設SACLAを用いて、PSIIが光合成の水分解反応において酸素分子を発生させる直前の状態の立体構造を2.35オングストローム分解能 (1オングストロームは1000億分の1メートル)で決定し、PSIIの中にある酸素発生中心とよばれる触媒部分において、水分子が導かれて酸素分子へと変換される仕組みを明らかにしました。

図:今回SACLAのX線自由電子レーザーで解析した光化学系 II 複合体(PSII)に含まれる水分解触媒の立体構造。「ゆがんだイス」のかたちをした触媒に水分子が取り込まれた瞬間を捉えている。水色の部分が今回明らかにされた酸素分子が発生する部分

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1038/nature21400

Michihiro Suga, Fusamichi Akita, Michihiro Sugahara, Minoru Kubo, Yoshiki Nakajima, Takanori Nakane, Keitaro Yamashita, Yasufumi Umena, Makoto Nakabayashi, Takahiro Yamane, Takamitsu Nakano, Mamoru Suzuki, Tetsuya Masuda, Shigeyuki Inoue, Tetsunari Kimura, Takashi Nomura, Shinichiro Yonekura, Long-Jiang Yu, Tomohiro Sakamoto, Taiki Motomura, Jing-Hua Chen, Yuki Kato, Takumi Noguchi, Kensuke Tono, Yasumasa Joti, Takashi Kameshima, Takaki Hatsui, Eriko Nango, Rie Tanaka, Hisashi Naitow, Yoshinori Matsuura, Ayumi Yamashita, Masaki Yamamoto, Osamu Nureki, Makina Yabashi, Tetsuya Ishikawa, So Iwata & Jian-Ren Shen. (2017). Light-induced structural changes and the site of O=O bond formation in PSII caught by XFEL. Nature.

  • 朝日新聞(3月2日 20面)、日本経済新聞(2月27日 13面)に掲載されました。