大地震発生直前の電離圏異常を検出 -マグニチュード7以上の大地震の直前予測の可能性-

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公開日

※一部修正を加えました。

梅野健 情報学研究科教授、岩田卓也 同博士前期課程学生は、複数のGPS観測局から電離圏の電子数異常を捉え、マグニチュード7以上の大地震発生予測につながりうる、実用的なデータ解析手法を開発しました。公開されているデータのみを用いるデータ解析手法であり、将来的には大地震発生の1時間から20分前といった直前の異常検知に資する可能性があります。今後他の研究グループによる正確性の検証が進むと考えられます。

本研究成果は、2016年9月30日に米国の学術誌「Journal of Geophysical Research ‐ Space Physics」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、梅野教授、岩田博士前期課程学生

この研究のポイントは、携帯電話の一つの通信方式であるCDMA, 電波望遠鏡、重力波観測で用いられている、相関検波による微弱信号検出技術を、約1300のGPS観測局からなるGEONETのデータ解析に新しく応用し、また人工知能の予測技術も取り入れ今まで見れなかった大地震直前の電離圏電子数データの異常を捉えたことにあります。

また、本研究成果は、マグニチュード7以上の大地震発生1時間前から20分前の直前予測の可能性、マグ二チュード7以上の大地震警報システム構築に道を開くものであり、今後国土地理院のGEONETで公開するデータ等を用いて、本手法の異常検知能力の第三者検証が進むことが期待できます。また、東北地方大洋沖地震以外の国内外の大地震にも本手法を適応し、地震直前異常が観測できる地震の大きさ(Mw)の最小値、地震直前の電離圏電子数異常の物理的説明を与えること、そして、地震の大きさと電離圏異常の特徴との関係といった課題の解明に取り組む予定です。

概要

地球の上空には電離圏と呼ばれる電子が広がる層が存在し、衛星通信にしばしば遅延や測定誤差をもたらす要因となっています。電離圏は地震や火山、太陽フレアなどの自然現象やミサイル発射などの人為的事象によって影響を受けます。電離圏電子数の観察によるマグニチュード8以上の巨大地震発生前の異常検出は、2011年東北地方太平洋沖地震の本震直前に電離圏電子数の異常増加現象が発見されて以降、注目され研究されてきました。

これらの従来のデータ解析法では、その異常を検知するために地震発生後のデータが必要で地震の直前予測には直接利用できず、又、異常が検知されたにも関わらず、該当する巨大地震が発生していないなどの予測誤差があるなど、未だ確固たる異常検知用法として確立されていませんでした。また、マグニチュード8以上の地震の電離圏電子数の異常は検知されていましたが、それ以下のマグニチュード7クラスの地震では異常は検知されていませんでした。

そこで、本研究グループは、クエーサー電波検出に用いられる複数局電波干渉をヒントに、複数GPS観測局データに対する相関解析法を開発し、マグニチュード9.0の2011年東北地方太平洋沖地震の本震、マグニチュード7.3の三陸沖地震(2011年東北地方太平洋沖地震の前震)、マグニチュード7.1の東北地方太平洋沖地震の余震の直前に上空の電離圏電子数の異常を捉えることに成功しました。

図2:東北地方太平洋沖地震発生時刻の平成23年3月11日14時46分の4分前の14時42分に観測された相関値C(t)の分布図。
黒の■が震源地を示し、青色の線がプレート境界を示す。赤色の点が異常と判定された位置を表す。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1002/2016JA023036

Takuya Iwata and Ken Umeno. (2016). Correlation analysis for preseismic total electron content anomalies around the 2011 Tohoku-Oki earthquake. Journal of Geophysical Research: Space Physics, 121.

  • 京都新聞(9月30日夕刊)、産経新聞(9月30日夕刊 1面)、中日新聞(9月30日夕刊 1面)、日刊工業新聞(10月20日 23面)および毎日新聞(10月1日夕刊  7面)に掲載されました。